メロンと噴水
噴水の縁に座って、友達とメロンを食べて暇潰しをしていた。噴水には蹄を洗いに沢山の動物がきた。白い馬と驢馬と駱駝と、よくわからない生き物が沢山。
兎が来たときに、友達は立ち上がって兎を抱き抱えてその小さな足を洗うのを手伝ってあげた。噴水の中には鰐がいて、強い蹄がない生き物は食べられてしまうから。
兎は洗われて白くなったけれど、そのまま友人の手の中で溶けて無くなってしまった。
「砂糖で出来ていたのかもね」私は言った。「生きてるみたいに脈うっていたけど」友人は言った。
偽物だったのよ、と私は思って、メロンの続きを食べた。甘いだけの偽物だったのよ。
友人は偽物でもなんでも甘いのが好きだった。可愛ければよりいっそう好きだった。それに、あの兎は柔らかくて、温かくて脈打っていたのだ、生きているように。
それで、少し悲しそうだった。
友人は、居なくなった兎を膝にのせて、噴水の縁に身体を伸ばした。
私たちは、けして、噴水の中に足を浸したりしなかった。そこには、本物の鰐がいたから。
時々、風に流されてきた水飛沫を顔に腕に感じながら、本物の海や湖のことを考えて、午後の1時間を無駄にした。
それから、私達は噴水を離れて、やるべきことをする為に定位置に戻った。いなくなった兎とメロンの香りを連れて。
窓からは噴水が見えた。時々、水飛沫の周りに虹が光った。鰐は縁に顎を乗せてひなたぼっこをしていた。
あの鰐が居なければ、私達はあの噴水の中に入って思う存分遊べるのに。
あーあ。
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