朝の通勤ラッシュのぎゅうぎゅう詰めの丸ノ内線内で、スーツを着た中年の男性が突如叫びだした。「ああ゛ー!! 死にたい、死にたい、死にたいんだよっ!!」特大の悲壮な叫び声だった。 その男性を中心に緊張が走った。男性の周りにいた人達は距離を取れる訳もなく、目をそらせて俯いていた。皆、この手のことには慣れているのか、わざわざ首を回して声の主を探そうとする素振りを見せる人達は居なかった。ただ彼の少し側に居た若い女性は少し毒を喰らってしまった。少し怯えて泳いだ彼女の目が目の前にいた大学
自分の中のきれいな水で満たされた みずさしを わざわざ自分から濁らせるようなことは もうしないと誓っても 混ざるときは混ざる 余分なものが 沈殿して また澄むまで じっと待つ 白く 黒く 濁っても また透明は戻ってくる 澱を取り除いて もう自ら足さないこと なのに、猿が来て暴れる 濁る濁る水 あっという間に濁る 曇る 見えない 苛つきと不安 そのあとにくる怒り 疲れる 猿はあたしにそっくり ねえ、何をしてるの? ねえ、もういっそ そこでくたばって あたしはあなた
あのグレープフルーツ・ヘッドマンは 結構陽気にやっていたのに なんでなんだろうね ある日、満月の夜に 観覧車のてっぺんで 逆立ちして泣いた後 自分の頭を搾りきったらしい わお、やるね。 で、それでどうなったのさ? どうもこうもないよ、 わかるだろう? 拗くれて搾りきってお終いさ。 この話もこれでおしまい。 さあ、もう寝なさい。 そんな馬鹿な話があるかいな!! 馬鹿な話も何もよくある話さ。 グレープフルーツ・ヘッドマンの 行方は未だわからず仕舞なのさ ねえ、あんた!
※性的な描写、暴力的、不快な表現が含まれています。苦手な方はご注意下さい。 ──────────────────── ちゃんとゴムを付けてくれる人を正常な人だと思う反面、病気持ちと思われてる?/生は嫌なんだ?/哀しい/と咄嗟に思うのは異常な状態なのかもしれない。 彼氏が避妊してくれないから別れようと思うという友達の話を聞いていて、彼氏さんの方が異常で友達はまともだなと思う。即刻、そんな奴とは別れてよしと思う。正常な反応だと思う。 好きな人とやるのは気持ち良すぎるから、ピ
時々、目にするかなしいベーコン。 ドイツでそれは失恋の悲しみからドカ食いをしてしまってついた脂肪のことを指すらしい。 とはいえ、私は失恋の悲しみから痩せてしまった。鏡にうつる身体は、痩せて肋(あばら)が浮き出てしまっている。鎖骨の下に幾筋も見える骨は巨大な白い蜘蛛が長い脚を伸ばして私の胸にしがみついているように見えた。少し身体を捩るだけで肋の一番下の骨の窪みが飛び出して影をつくった。その窪みには、何かを置けそうだった。片方だけになったピアス。小さな鳥の置物、卵の殻を3つか4
慌ただしいランチタイムの後、客の去ったテーブルのトレイの下にノートの切れ端が残されていた。落書きなのか、なんなのか。特に店で働くバイトに宛てたラブレターの類ではないのは確かだった。ノートの切れ端に書かれていたのはこんな具合のことだった。 ・ノートの表 川に間違えられたご婦人には是非とも会ってみたい。大きな人なんだろうか。背の高い人なんだろうか。彼女は多分、青いワンピースを着ていて、その中を鱒は通過していって、川の流れのきらめきを全部をうつしているように見えたのだろうか。
※暴力な表現、不快な表現が含まれています。苦手な方はご注意ください。 変質者どもが自分の行為の穢らしさの生み出した毒に喘いで媚び諂った赦しと肯定を自分の腐った取り巻き達に乞うている声があちらこちらで噴き上がる夜 矢鱈と着飾った言葉を並べ立てるがその言葉には其奴らが踏み潰した女子供の糞尿が涙がこびり付いて汚臭と怨みを放っているのに、自己愛に脳味噌を吸われて干涸らびた糞共は自分可愛さのあまりそれにまったく気がつかない。気が付く脳味噌もなくなっていてゲロのように垂れ流す出す言葉
もっと素敵な文章が書けたらと思うけどどうしようもない。夜中にベランダに出て手摺りに寄りかかるとひんやりしていた。 震えるくらい光る星は多分これよりもっと冷たい。溢れるくらい光を抱えた星が震動してるのをこの手で実際に触れて感じてみたい。星から溢れる光の粒を一番近くで見てみたい。 あの人にはそれができているのかな。 星を見たかったのに満月だったから空は明るすぎた。僕は月を撃ち落として、そうしたら星は怖がって散ってしまった。 月はまた生えてくるだろう。 満月だったからはしゃ
※不快な表現、暴力的な表現が含まれています。苦手な方はご注意下さい。 「透明なカーテンが欲しいな」と言ったら「それ意味ないじゃん」と間髪入れずに友達は答えた。 もう一人の子は「それわかるわ」と言った。 お金持ちの子の家には水を循環させてつくる水の壁の仕切りがあった。「でも、あれはちょっと違うんだよね」と私は言った。「わかる」とその子は言った。「あれは親の風水だかなんだかだから」。時々うざいよ、とその子は言った。 「いや、そういうことでもなくてさ」 私の求める理想の完璧
湖には白い鳩の死骸が浮いていた それで、私は悲しくなって 持っていた白いアイスを口に出来なくなった 恋人は「あれはビニールだよ」と言った 彼は 器用に落ちていた枝で元鳩だったビニールを たぐり寄せると私達の丁度真ん中の足元に放った それで、私は明るい太陽の下で アイスクリームを一口舐めた くたくたのビニールは 溶ける前のクリームと同じくらいぐんにゃりしていて私には鳩にしか見えなかった その時 最高の恋人と 元鳩だったビニールと 私の上 には 同じ空気と時間と太陽
「何をわかっていないかもわかっていないからそんなに馬鹿なのに自信満々でいられるんだよこのバカッ!!」 といって、彼女は居酒屋のテーブルに五千円札を叩き付けて店を出て行ってしまった。「知らないとでも思ってるの?」と妙に気になる捨て台詞を残していった。はっきりいってそれが何を意味しているのか俺にはわからなかった。近所の外猫にこっそり餌をあげていることでなければ、バイト先の隣の水草屋(と、俺らは呼んでいた)で飼われているウーパールーパーと話ができるようになったことだろうか? 彼
なにもかも すごくはやくてとらえられない。全部、通過していく。 胸とあたまの真ん中に空いた穴を アナグマ 鳥の群れが 巨大な鮫が 新鮮な空気が 雨は降りっぱなし 雷は鳴りっぱなし よくわからないこと わかった気になってたこと 全部、通り過ぎていって 焼け野原みたいになって 逆に さっぱりした 残るものは何もなくてもいいのかも 楽しくて はずかしくて 全部わすれちゃうし どうして全部ひきとめようとしていたのかな (残るものは何も無くていいとか、何を言ってるんだかね、
噴水の縁に座って、友達とメロンを食べて暇潰しをしていた。噴水には蹄を洗いに沢山の動物がきた。白い馬と驢馬と駱駝と、よくわからない生き物が沢山。 兎が来たときに、友達は立ち上がって兎を抱き抱えてその小さな足を洗うのを手伝ってあげた。噴水の中には鰐がいて、強い蹄がない生き物は食べられてしまうから。 兎は洗われて白くなったけれど、そのまま友人の手の中で溶けて無くなってしまった。 「砂糖で出来ていたのかもね」私は言った。「生きてるみたいに脈うっていたけど」友人は言った。
※暴力的な表現が含まれています。苦手な方はご注意下さい 呆気にとられて犬の飼い主の女性とスーツを着た男性は雨の中、犬が開けっぱなしであった車の後部座席に飛び込むのを見届けてからも、暫くその場に立ち尽くして雨に打たれていたが、男の方が先に我に返って電話を取りだして救急車を呼んだ。白い獣は男の足元に踞ってそれを聞いていた。 いざ、頭を負傷した男が担架に乗せられて、救急車が走り去った後も三人は雨に打たれたまま立ち尽くして何もない雨に打たれて飛沫を上げる道路の先を眺めていた。吹
日曜の深夜3時から降り始めた雨は明け方まで降り続けて町の下水を溢れさせた。実際に雨水が下水管を逆流して噴き出したのは午前8時丁度のことだった。水はマンホールを吹き飛ばし雨の中を出勤していた男の頭を直撃した。 男はその場に崩れ落ち、マンホールの方は身を立てたままなだらかな坂を下っていって路肩に止められた車の前で倒れて死んだ。車のことは傷付けなかった。それは、マンホールのなぐさめになった。それから、手の長い生き物が現れ、男の足を引きずって道路脇の芝生の上に横たえた。それから、
小さな足音がして、僕のおでこが控えめに叩かれた時、僕はまだ眠れずにいた。カメレオンが来たようだ。 カメレオンには悪いけれど、僕は寝たふりをしてやり過ごしてしまおうと目を閉じたままじっとしていた。あと、ほんの少しで僕は眠りの世界へいけそうだった。明日は大切な用事がある。一刻もはやく眠りにつきたかった。 再び、控えめにおでこが叩かれた。 それで、僕は仕方なく目を開けた。 暗い部屋の中で、カメレオンの胸のあたりが暗いグレーからレモンイエローに変色したのが見えた。 喜んでい