気に入る音楽が違いすぎるみたい

湖には白い鳩の死骸が浮いていた

それで、私は悲しくなって
持っていた白いアイスを口に出来なくなった

恋人は「あれはビニールだよ」と言った

彼は
器用に落ちていた枝で元鳩だったビニールを
たぐり寄せると私達の丁度真ん中の足元に放った

それで、私は明るい太陽の下で
アイスクリームを一口舐めた

くたくたのビニールは

溶ける前のクリームと同じくらいぐんにゃりしていて私には鳩にしか見えなかった

その時
最高の恋人と
元鳩だったビニールと
私の上
には
同じ空気と時間と太陽の光があった
それ以外は全部違った

恋人は
私とはすこし違うところにいた
私は絶対的に鳩側にいた


私は溶けかけのアイスが苦手だった
ここには、こっそり捨てる場所がない
隠れて埋める場所がない

迷わず
湖の先の
森を抜けて

どんどんあるいて
色んなことを
置いていって

海に行き着きたいと思った

ここは、すこし涼しい

ここには、鳥の声もした
けれど

ここには
気に入るものが何もない

私は溶け出したアイスが嫌いだったし

私は溶けることのない
白い貝を手にしていたかった

ビニールは水に溶けず
お腹の中には溶けたアイス

全部吐いてしまいたいと思った

最高じゃないものを
最高だと思いたがったり

最高なものを
最低だと思いたがったり

ぴたっと
何もかもが一致する嘘のない瞬間は
何回くらいあるのだろう

ビニールは鳥の死体のかたちのまま
水を滴らせて
地面に横たわっている

わたしは元鳩だったものを
蹴飛ばしたりはしない

恋人はといえば
ビニールを道の端の草むらへ
蹴飛ばして
この場をきれいにしたような
笑顔をみせて
すっきりした顔で歩き出した

わたしは

さて
扱いにくいとよくいわれる私は


ビニールを
手にして
逆方向へ
歩き出した

耳を閉じて
森へ向かった
お墓をつくるために

足どりは軽くなって
目の下まで透明な水が
満ちてきて
息がしやすくなった

背中に目がついているように
恋人がうんざりして
ため息をついて
しばらくわたしをみつめて
(睨み付けていたのかも知れない)
それから
あきらめて
彼は
私とは
逆方向へ颯爽と歩き出したのが
鏡にうつっているみたいに
はっきりと
みえた

君とは
あなたとは
踊れない
これ以上は無理みたいだね

お互い
好きな音楽が違うみたい
距離を離して

お互いが綺麗だとおもう
光ときれいな空気のあるところ
息のしやすいところへ
行った方がいいみたいだね


気に入る音楽のするところ
気に入る食事のでるところ
気に入る匂いのするところ


信頼のペンキが剥げて
妥協の文字がくっきりみえはじめて
その下にかかれた文字はよく読めない

恣意的とか
正直とか
我が儘とか
どうでもいい

暴力的だとか
あざといとか
幼稚だとか
だらしないとか


お金を稼いで
おさめるものを
おさめていれば
あとはなにをしていてもいいとしか
教わってこなかったのだもの
君の目指す星は汚いよね
あなたの目指す星は汚いよね

というか、星でも無いよね
すごくすごく汚くて

あなた/きみの目にうつっているのは
星でもないし
光でもないよ

そうさせられたんじゃなくて
そうしたいんだろ?


こういうことが
ほら、はじまった
絶対に、はじまると思っていた

だから、遠くにいって
離れたほうがいい
繫がれていた最後の糸を
チョキンときると
わたしたち
すごく息がしやすくなる

私は土をほる
溶けたクリームのお墓をつくる

あなたは何かしてる?
汚いステップと汚い鼻歌でも
したいことをしたほうがいい

あなたから見れば
私が汚い

私はこれからまだ綺麗なビニールを大切に持って帰って太陽の下に干すつもり

そうするとビニールは鳩に戻るし私には私の音楽が戻ってくる

ほら?
元恋人がうんざりして顔を歪めてるのが見えるけど、私は慣れっこだからパチンとスイッチを切るように彼の顔をシャボン玉くらい簡単に弾けさせて風景の中に消すことも自由自在になって
そうすると
ほら?意外と
ここは綺麗
何処にも行かなくても
綺麗な場所になる

何かまちがってるよ、と鳩は話し出すと思う

私はわかってるよ、と答えると思う

でも鳩、私はあなたと話したかったし、あなたと海にいくほうがすごく私には合ってると思ったのよ。あなたが草むらに蹴飛ばされた時に

私はあなたを拾い上げて
あなたが鳥に戻るのを
私自身に見せてあげたかったのよ

わからないな、と思われるかも

私だってわからないのだもの
どうして私がこういう風に私なのか

時々、笑っちゃうくらいわからないんだけど
笑っちゃうくらいこうしてるのが好きなのよ




 




























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