Three Views of a Secret/JACO PASTORIUS
ジャコ・パストリアスは、デヴィッド・サンボーンと同じくらいジャズ好きの彼が好きなアーティストだ。
彼がある日、聴かせたい曲があるというので彼の部屋に遊びに行った。
その時聴かせてもらったのはこの曲だった。
正直言うと、インストの曲はよくわからなかったし、彼がどういう意図でこの曲を聴かせたかったのかもよくわからなかった。
聴き終わって、彼が「どうだった?」と不安げな表情で聞いてきた。
わたしは、「うん、いいね! ジャコ・パストリアスはこんな曲を書けるなんて素晴らしいアーティストだね!」とちょっと嘘をついた。
すると彼は、「そうだろ! ジャコはいい。きみならこの曲のすばらしさをわかってくれると思ってたよ!」と大喜びした。
なんでも、彼はジャコの曲の中では一番この曲が好きらしく、わたしがこの曲を好きになるかどうか試していたらしい。
よくわからない、って言わなくてよかった、とほっと胸をなでおろした。わたしは彼の隣の座を確保することに成功した。
それから十数年。今ではジャコ・パストリアスを自分で進んで聴くくらいジャコが好きになった。「リバティ・シティ」や「ザ・チキン」も好きだけど、この曲がやはり一番好きだ。
彼の近くにいた時の甘い思い出とともに、ちょっとだけついた嘘にちくんと胸が痛むけど。彼はわたしがこの曲を好きになると思っていたのだから、鋭いなあと思った。実はわたしのついた嘘も、見透かされてたかもしれない。
『Word of Mouth』(1981)収録。最初は彼の所属していたウェザー・リポートのアルバム『Night Passage』(1980)に収録されたが、のちに彼のソロアルバムでもあるこのアルバムでビッグ・バンド形式で再録音された。