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めじろ観光バスツアー「チェーンソー」篇#4

ここに、大きな切り株がある。
もとは、見上げるほどもあっただろうと思われるほどの大きさだ。

そこへガイドがやってきて切り株に腰掛ける。日々の分からず屋にストレスを感じると、時折やってきて切り株と話をするのだ。

あるとき、切り株はこんな話をしはじめた。
「昔、わしのもとに若い男が来ての」
ガイド「昔。昔のお話しですか」

切り株の話は、こんなだった。

やってきた青年が大きな木をみあげて言った。
「こんな木で練習できるといいんだけど」
名残惜しそうに去った青年は、翌日もやってきて言った。
「この太さなら、きっと上々に練習できるんだ」
そして去ろうとした青年を、木は呼び止めた。

話を聞くと、青年はチェーンソー検定のために練習できる木を探している、ということだった。だから木はからだを貸した。

青年はなんども練習して、それと比例して木はどんどん小さくなっていった。
そして彼はみごと試験にパスした。

そこまで聞いていたガイドは言う。
ガイド「それでよかったんですか」
切り株「役に立てて後悔はない」


それからしばらくして、切り株になってしまった木のもとに、青年がやってきた。
手には小さな木の苗。大きな切り株の横に、手で穴を掘ってそれを植えた。
「ありがとう」
そっと切り株にふれて、言った。
それきり、青年がやってくることはなかった。

小さな木は、やわらかな陽を浴びて両腕を広げるように、青葉をいっぱいに開いている。


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