共通テスト英語リスニングで再開テストを受けた話
今年も大学入学共通テストの時期がやってきました。
現在大学1年生の私は、昨年度の共通テストを受験したわけですが、その際に「英語リスニングで機材トラブルを起こし、再開テストを受ける」というかなり稀有な経験をしたので、今年のこの時期に文章として残してみたいと思います。
大学入試センターの発表によると、昨年度の共通テストリスニングの受験者は約48万人なのに対し、リスニング再開テストの受験者は409人。そして、ある会場で試験中にチャイム音が流れたため371人が再開テストの対象となったらしく、(再開テストは辞退してもよいのでこの全員が受けたわけでもないが、)機材トラブルが理由で再開テストを受けるのは全国に数十人しかいなかったことになります。私がそのうちの1人、というのは逆に強運の持ち主なのかもしれません。私の場合は偶然に偶然が重なって起きたことでしたので、あまり再現性がない話にはなると思いますが、再開テストの経験を詳細に語った記事自体がネットにほとんどなさそうだったので、ある種の責任(?)を感じつつ書いていきます。
共通テストのリスニングといえば、1人に1台専用の機器が配布されて、それを(試験官の指示に従いつつ)各自で操作して音源を流すのはご存知の方も多いと思います。私も共通テスト以前に、複数の模試で本番に似た機材を使ったことがあったので、操作方法は知っていました。各自でSDカードを機材に入れる必要があって、入れた後にパカっと蓋を閉めるのですが、そのフィット感が綺麗だなという感覚は模試の時点からちょっと印象に残っていました。
しかし、共通テスト当日、私に配布された機材の蓋は綺麗にフィットせず、初めは本当に閉まっているのかと少し心配になっていました。とはいえSDカードは問題なく入れられたので、本番の機材はこんなもんなんだと思って、この時点ではスルーしていましたが、あの機材は軽微な不良品だったのでしょう。もちろんその程度の欠陥が、音源の再生に影響するはずもなく、私は第1問から皆と同じように解いていましたが、蓋のことがどうしても気になって、何かの拍子で開かないようにずっと左手で蓋を押さえつけていました。後半になっていくにつれて、緊迫感からか押さえつける力が段々強くなっていった気がします。
そうしているうちに大問6まで進みましたが、ここで事件が起きます。問題文の説明が日本語で読まれていたのですが、それが終わって随分経っても英語が読まれない。それに気づいて機材の方に目をやると、赤いランプが点滅していたのです。その間もずっと左手で蓋を押さえつけていたのですが、ここで異変に気づいて初めて手を離すと、SDカードが機材から飛び出してしまっていたことに気付きます。蓋をあまりに強く押さえていた力が中のSDカードまで届いたのでしょう。押さえるのは完全に逆効果だったわけです。
残りの問題はわずか4問でしたが、これではどうしようもないので、すぐさま手を挙げて試験官を呼びました。試験官は1枚の紙を持って来て、その紙には受験生の要求として考えられるものがリスト化されていましたが、私が「リスニングの音声が中断した」にチェックをつけると、別に紙が1枚持ってこられ、マーク番号何番から音声が止まったのかを書かされました。そして、私の機材はいち早く回収され、そのまま待機するよう伝えられました。ちなみに、問題用紙はまだ手元にあるので、他の人が解き終わるまで、まだ解いていない部分の下読みをするのは一応可能でした。(私は下読みを終わらせていたので別に何もしませんでしたが。)
通常のリスニング試験が終わり、私の途中まで解いたマークシートは一旦回収され、皆帰宅したのですが、私が1人で教室に取り残されました。ここからは試験官4人が私1人のために教室にいました。精神的にもウッとなる状況でしたが、受験期は何でもできるだけプラス思考に変換するのを心がけていたので、残り4問時点で一度頭を冷やす時間が与えられたと思い込むことにして乗り切りました。
再開テストは大学入試センターの指示がないと始められないので、そこからも割と待たされます。まずは、機材トラブルの原因を詳細に訊いてくる紙が配られ、多くのパターンから当てはまるトラブルにチェックをつけるのですが、私のトラブルに当てはまるものが書かれておらず、事細かに「その他」の記述欄に事情を書きました。私は大学入試センターでさえ想定していなかったトラブルを起こしたらしいです。さらに、再開テスト受験願の書類も書かされました。
再開テストが始まったのは30分ほど経った後のことです。試験問題は全く同じです。新しいマークシートが配布され、受験番号などを書き込みます。この際、試験官の方も、全員で受けた試験のときと同様に注意事項を1つずつ読み上げ、「受験番号はマークしましたか?」といった確認も、1人に対してでも言ってもらえます。そして、問題用紙は音声が止まった大問のページを開いた上で裏返しにさせられます。同じ音源を最初から再生するのですが、音声が止まる前の問題については解答してはならないことになっており、大問5まで虚無の時間が続きます。そして、大問6に入るタイミングで問題用紙を裏返して、残った4問を解きました。解き終わったら、前に回収された元のマークシートが手元に戻り、その解答を変えずに新しいマークシートに写していくことが求められます。その間、1人の試験官が私の近くで、解答を変えていないか見張っていました。全部写し終わった後も、写し間違いがないか3回確認するように言われます。そうしてマークシートは回収され、解散となりました。他の人より1時間以上遅れての解散。私1人のために1時間余分に労働した試験官に頭を下げて教室を出ました。
機材トラブルは、ごく低い確率でありながら誰にでも降りかかってくる可能性があります。幸い私はそれを乗り越えて、最終的には東京大学に合格できました。私のように、ピンチをチャンスに捉えてやり切れば、こんな話し草にも昇華できますから、受験生の方は本番で何かイレギュラーが起きても慌てず、自分を信じて頑張ってほしいです。
2023年1月13日
テルルヨウ素