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《連載ファンタジーノベル》ブロークン・コンソート:魂の歌声

前回

8.脅威ー(4)

 ジミーとスザンナがラジオ局を出て、ホテルへ向かおうとしている時だった。スザンナのスマートフォンに知らない番号から電話が入った。スザンナは今日の放送を聴いた音楽関係者からの電話だろうと、警戒しながら通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「久しぶりね、スージー」
 聞こえてきたのは、スザンナにとって一番聞きたくなかった母クリスタの声だった。
「どうやって、この番号を知ったの?」
「少しばかり、ホワイトハウスの人間を知っているものだから」
「そうだった」
 横にいるジミーが〝どうした?〟とジェスチャーしている。
 スザンナはため息を吐いて、顔を横にふった。
「で、何の用?」
「あら、冷たい挨拶ね」
 スザンナは、再びため息を吐く。
「あなたの復活を祝って、パーティーを開こうと思って」
「復活? 私はもう歌わないって決めたの。復活は間違っているわ」
 ジミーが〝誰だ?〟と口パクをして訊いた。スザンナは〝待って〟と、手で制した。
「そうなの? 今日のパフォーマンスは最高だったわよ。私には完全復活に思えたわ」
「どうとでも思えば」
 数秒の沈黙があった。
「どちらにしても、数年ぶりにニューヨークに帰ってきたのだから会いたいわ。食事もしていないでしょ? パーティーに顔を出しなさいよ。あなた達にとっても、いい宣伝になるんじゃない?」
 スザンナは無言のまま、スマートフォンを耳から離した。
「待ってるわよ。スー……」
 スザンナは母クリスタの言葉を最後まで聞くことなく終了ボタンを押した。
「おい、スザンナ」
 ジミーが声をかけたので、ようやくスザンナはスマートフォンから顔を上げた。
「何?」
 スザンナが視線を向けた先には、黒のリムジンが停まっていた。アクション映画のワンシーンのように、後部ドアの窓がスーっと降りた。そこには、アメリカの誰しもが知っている国民的歌姫クリスタ・ウィルソンの顔があった。
「迎えにきたわよ。乗ってちょうだい」
 ジミーとスザンナは、半ば強引に乗車させられた。
「クリスタさん、お目にかかれて光栄です」
 クリスタの向かいに座ったジミーが手を差し伸べた。
「まあ、あなたがジミーね。とってもキュートな坊やじゃない」
「どうも」
 大物スターに出会えて喜んでいるファンのような態度をとるジミーに、スザンナの怒りが沸騰した。
「ちょっと、何してんのよ!」
 そう言って、クリスタからジミーの手を引き離した。
「どうしたんだよ」
 スザンナの言動に驚くジミー。
「坊やだなんて。坊やって言われてヘラヘラして、バカじゃないの!」
「別にどうってことないだろ」
「ほら、彼の方が大人じゃないの。何をそんなにイラついているのよ、スージー」
「その呼び方はやめて!」
「わかったわ」
 その後、車外に出るまで3人は無言のままだった。車内にはジャズの名曲が静かに流れている。タイトルも歌っている歌手の名前もわからなかったが、ボーカロイドが歌っていないことだけは、ジミーにもわかった。

 到着したのは、ラガーディア国際空港だった。
「一体、どこへ連れていくつもり?」
 スザンナは怪訝な顔をクリスタへ向けた。
「あなた達が、最高のパフォーマンスができる舞台に、連れて行ってあげるのよ」
 クリスタの言葉を受けて、ジミーとスザンナは顔を見合わせた。
 この先には、何が待ち受けているのか。それは、新たなる冒険なのか、さらなる苦悩なのか、この時に二人には図り知ることができなかった。

                            つづく

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