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《連載ファンタジーノベル》ブロークン・コンソート:魂の歌声

前回

5.挑戦ー(4)
 
  
ダンデライオンのように強い人
  何度押しつぶされようが立ち上がる
  砂漠で倒れそうな俺の心と体に潤   
       いをくれる
  口づけを交わし、触れ合う
  俺の鼓動は強い酒をあおった時の 
       ように早くなる
  お前という泉に堕ちた俺
  お前の鼓動は聞こえない

  ダンデライオンのように明るい人
  何度太陽に焼かれそうになっても 
       挫けない
  砂漠で横たわる俺の心と体を癒し     
       くれる
  激しく求め合い、愛し合う
  俺の鼓動はエクスタシーを感じ早   
       くなる
  お前という泉に堕ちた俺
  お前の鼓動は聞こえない

「サプライズで聴かせるつもりなのかい?」
「そんなつもりなんてないよ」
「だって、スザンナがいなくなってから歌い出すからさ」
「彼女のために作った曲じゃないし、彼女は気に入らないと思っただけだよ」
 セスは一瞬安堵の表情を見せたが、すぐさま不審を抱く顔になった。
「マネージャーに余計な邪推を抱かせたくなかっただけさ」
「発表しないつもりなの?」
「彼がいいって、いえば」
「彼?」
 ジミーは黙ったまま、セスを凝視した。
「あ? ああ、そうか」
 セスの顔がパッと明るくなった。本当にセスという人は、肩書に似合わず純粋な人間だとジミーは思った。
「彼に、OKがもらえるような最高のアレンジをしよう」
 ジミーは肩を揺らした。そして、右手を差し出した。差し出された手のひらに“パチン”とタッチするセス。
「あ、骨伝導と周波数のことを提案したのは、その」
 ジミーはフッとひとつ息を吐いた。
「そいつだよ」
「なるほど」

 母校をじっくりと観察しながら歩いたことがなかった。いつも時間に追われていた。頭の中はいつも許容範囲を超えていて周りの景色などまったく入ってこなかった。
 スザンナは自殺未遂事件から復帰するも、まったく歌うことができなくなっていた。歌声を完全に失ってしまっていた。
「話はできるのに、歌おうとすると声がでない」
「心理的なものだろうから、何らかの形でリハビリをしていけば、きっとまた歌えるようになる」
 と、担当の精神科医はやさしく言ってくれたが、いっこうに歌えなかった。
 スザンナは実力派人気歌手クリスタ・ウイルソンの娘で、人気ポップス歌手という肩書を捨て、カルフォルニアでの再出発を決めた。音楽と離れずにいられる勉学がある東カルフォルニア大学で音楽療法の勉強を始めた。学んでいくうちに、スザンナの心が変化していった。セスや大勢の被験者たちと接するうちに、自分自身も癒されていくのがわかった。人の歌声の中に、スザンナが持っていた歌声を見出すことができた。
 私は、歌声の伝道師になろう。音楽療法とマネージメントを併用して学んだ。マネージメントは思いのほかおもしろかった。母のマネージメントをしてやればよかったと思う。だけど、一緒にいればお互いを傷つけあってしまう。それがわかっているから、あえて離れることにした。お互いの人生を俯瞰的にみることで、いい所もわかる。
「ママの歌声は、今でも素晴らしい」
 離れてみて、スザンナは心からそう思えるようになった。
 そして、ジミーの歌声はアメリカを変革する起爆剤になる。今の私にはわかる。スザンナは確信していた。

                             つづく


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