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《連載ファンタジーノベル》ブロークン・コンソート:魂の歌声

前回

1.長く困難な旅ー(2)

 長く困難な旅になることは、ショウビジネスの世界へ降り立った時からわかってはいたが、仲間も金もない。ましてや、地位や権力など何の意味も持たないこの現状をどう対処していけばよいのか、ジミーには検討もつかなかった。10年以上に渉るアンドロイド至上主義政権により、AI技能を持たない純潔、つまりはイノセンス主義の人たちはカルフォルニアとネバダ州以外での芸能就労ができなくなっていた。
 そんな途方に暮れていた時に、ジミーはスザンナ・ミッシェルという素晴らしいマネージャーと出会った。
「出身は東部?」
 メールでのやり取りを幾度となくやり、ジミーはようやくマネージメント
をしてくれることになった極小エージェントへ出向くことにした。これでダメだったら、もう諦めて大学へ戻ろうと思っていた。
「いえ、LAです」
「東部っぽいアクセントよね」
「両親がニューヨークです」
「ああ、それで」
 スザンナはラップトップから視線をジミーへ移して言った。
「写真で見るより色白なのね」
 スザンナは口角ひとつ上げずに言った。
「力強くて美しい目をしている」
 そう話すスザンナの瞳は、身震いするほど冷たい色だとジミーは思った。それは、昔テレビで見た氷山の裂け目のような色だった。
「なぜショウビズの世界に入ろうと思ったの?」
 ジミーは、タイタニックを沈没させようとする氷山を阻止する勢いで、スザンナの瞳を見つめ返した。次の言葉を発するまでに数秒を要した。
「有名になりたいからです」
 スザンナは黙ったままだ。
「有名になって、アメリカを、世界を変えたいのです」
 氷山は、なおも迫ってくる。
「ショウビジネスの世界を変えるの?」
「いえ、国を。人の心を変えて行くのです」
「人の心を変える」
 スザンナは視線をラップトップに戻した。その瞬間、タイタニックに向かっていた氷山の動きが止まったようにジミーは感じた。
「ここにサインして」
 書類から顔を上げたスザンナの瞳の色が少し変化していた。氷山の裂け目のような冷たさから、母が愛した青磁の皿のような美しさをまとったようにジミーには見えた。

                               つづく



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