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いじめについての基礎知識 〜だからいじめは絶対悪〜

突然ですが、あなたはいじめを受けたことがありますか?

おそらくほとんどの人は「ない」と答えると思います。

しかしそんな人がこの記事を読んでいるということは、いじめについて理解を深めたい、いじめについて知りたいという動機を持っていらっしゃるのではないでしょうか。

いじめを受けたことのないあなたは、もしかするとSNSや文献でいじめ被害者やその家族が

  • いじめは加害者が100%悪い

と言っているのを聞いたことがあるかもしれませんね。
それに対してあなたは、

「どうしてそこまで言うの?」

「人間関係の衝突に10:0で悪いことなんてないのに100%悪いなんて言いすぎじゃない?」

「原因があっていじめられる場合もあるんじゃない?」

と不思議に思ったかもしれません。

この記事では、そんないじめを知らない人の疑問を解決するいじめについての基礎知識を説明します。


いじめの仕組み

なぜ我々いじめ被害者が「いじめはいじめ加害者が100%悪い」と言うのか、理解してもらうためにはまずいじめの仕組みを知ってもらう必要があります。

いじめは、いじめを経験したことがない人にとっては想像を絶するようなメカニズムで行われます。

簡単にいじめの流れを説明します。

  1. いじめ被害者となるターゲットの「欠点を探す」

  2. 見つけた欠点を「大げさにあげつらい、被害を受けたと主張する」

  3. 続けて『被害を生じさせたターゲットは“悪”だ!』と主張し、「自分を正義の味方にする」

  4. 自分に正当性を持たせた上でターゲットを攻撃する

1.いじめ被害者となるターゲットの「欠点を探す」

人間は不完全な存在です。どんな人間にも欠点があります。
いじめ加害者は誰もが持つその弱点を利用します。
この時点ではいじめ加害者が何をするつもりなのかわかる人はまだいないでしょう。
ちなみにこの時、欠点というのはあいまいであればあるほど良いです。

例えば

  • 私が◯◯と言った時に怒った

より、

  • 性格が怒りっぽすぎる

の方が良く、さらに

  • 性格が悪い

の方がもっと良いです。
それが何故かはこの後わかります。

2.見つけた欠点を「大げさにあげつらい、被害を受けたと主張する」

上述した欠点をいじめ加害者は誇張します。そして欠点によって被害を受けたと主張します。

例えば

  • 私が◯◯と言った時に怒った

→私はその時とても悲しくて、相談したことに対して同情して欲しかったのに怒られてとても傷ついた

  • 性格が怒りっぽすぎる

→ターゲットちゃんは怒りっぽくてちょっとしたことですぐに怒るからいつも気を張り詰めてしゃべらなければならず、私はずっと我慢してきた

  • 性格が悪い

→ターゲットちゃんは性格が悪いので私やクラスのみんながとても迷惑をかけられている

といった感じです。
ちなみに、これらは全部嘘です。
なぜわざわざ嘘をつくのかの説明は次のステップで。

3.続けて『被害を生じさせたターゲットは“悪”だ!』と主張し、「自分を正義の味方にする」

ここまでいじめ加害者は、一生懸命ターゲットの欠点を探し、それの誇張を考え、ターゲットから自分(あるいは自分を含めた多くの人々)がどのような被害をこうむっているかを頭を絞って考えました。
全てはこのステップのためです。
いじめ加害者は自分を正義の味方にするためにこれらのことをしたのです。
何故か?
それは、

4.自分に正当性を持たせた上でターゲットを攻撃する

この最終ステップのためです。

ではなぜ、こんな複雑で労力の要ることをしてまで「自分に正当性を持たせた上で攻撃」したいのでしょうか?

人をいじめたくなるその理由

人類には、進化の過程で得た、サンクションという働きがあります。

人類はムラを作り、共同体を作ることで外敵から身を守り、獲物を得て暮らしてきました。しかし、共同体の役割を放棄して良いとこどりをする者、いわゆるフリーライダーは共同体にとって悪影響でしかありません。

そこで人類はフリーライダーを見つけ次第追放するように脳を進化させました。共同体に悪影響を及ぼす者を排斥することに喜びを感じるよう、脳の報酬系を進化させたのです。

これによってフリーライダーはすみやかに共同体から追放されるようになり、人類は生存競争を勝ち残ったのです。

この特性をサンクションと言います。

サンクションがあるから、今日でも人類は裁判や刑罰を怠けずに実施し、それによって共同体に不利益を生じさせる者を排斥し、社会を維持しています。

しかし、何事にも良いことと悪いことがあるもので、サンクションという脳の働きは本来サンクションの対象にならない人にまで及ぶようになりました。

誰でもいいから正当性をもって(共同体の維持を理由にして)排斥すれば脳の報酬系が獲得できるようになってしまったのです。

これをオーバーサンクションと言います。(中野,2017)

いじめ加害者は、オーバーサンクションによる報酬が欲しくて、つまり気持ちよくなりたくて「自分に正当性を持たせた上でターゲットを攻撃する」というまわりくどいやり方をしたのです。

つまり、いじめは人間関係の軋轢でもなければ、欠点を修正しようとする働きでもない、ただの自己満足のために行われるものなのです。

追及をかわすいじめ加害者

ここまでいじめの仕組みについて説明してきました。これをいじめを受ける側、ターゲットにされた被害者側からと、教師などの監督者側からもみてみましょう。

被害者側からみたいじめ

  1. ある日突然、特に何かした覚えはないのに攻撃される

  2. 攻撃された理由を尋ねると『これはお前が◯◯で悪いからだ!』と言われる

  3. ◯◯は事実を含んでいるので自分に原因があるかもと考える

  4. 自分が悪いかもしれないと思うと周囲に助けを求めにくい

  5. 孤立化

  6. 考えてもやはり自分は悪くないように思うので反撃しようとすると『◯◯で悪いのに反省していない、やはり悪い』と反撃すること自体を否定される

  7. 自己否定する


教師など監督者からみたいじめ

  1. ある日突然クラスで喧嘩が起きる

  2. 喧嘩になった側の一方が、「ターゲットちゃんが◯◯だから攻撃した」と被害を訴える

  3. ◯◯について調べると事実だとわかる

  4. 喧嘩になったもう一方に話を聞いても、歯切れの悪い答えしか聞けなかったり、原因は自分でもわからないと答えられたりする

  5. 加害者側が正しいと勘違いする

いじめはその壮絶な攻撃内容から、教師など監督者に発見されることも少なくないのですが、発見されたとていじめ加害者の嘘を見抜ける人は少ないです。

それはいじめというものが、目に見える形で発生する前からいじめ加害者の心の中で用意周到に準備されてから起きるものだからです。

いじめを加害者側からみた説明のステップ1で、ターゲットの欠点はあいまいであればあるほど良いと書きました。

それはなぜかというと、あいまいであればあるほど教師などの監督者の追及を逃れやすく、いじめを続けやすいからです。

あいまいさというのは具体性の対極にあるものですが、正当性を主張する理由に具体性があると「ターゲットがそれを止めるなら攻撃も終わりにしなければいけない」と指導されてしまい、いじめをやめなければならなくなります。

いじめ加害者はオーバーサンクションによる脳の報酬が欲しくていじめを始めたのですが、簡単にその快感から離れるのは我慢できません。いじめを継続するために、教師などの監督者の追及をなんとしても逃れようとします。

そこで必要になってくるのが「理由のあいまいさ」なのです。

また、いじめ加害者はあいまいさを利用して、攻撃の理由を変えることがあります。

ターゲットの性格や言動など、ターゲット自身の努力により克服可能なことが理由の場合にそれが起こります。

例えば

  • ターゲットちゃんが怒りっぽいのが嫌だから攻撃する

が理由のとき、ターゲットとなった人が努力によりそれを矯正すると、いつのまにか理由を

  • ターゲットちゃんはズレたところで笑うから攻撃する

に変えるのです。

ターゲットすなわちいじめ被害者がどうふるまおうと、いじめられるという状況は打破できないのです。

いじめの被害はここまで深刻

あいまいだったり状況に応じて変化したりする理由を掲げて“悪”だと攻撃されるとどうなるでしょうか。

あいまいであっても事実を含んでいる「いじめの理由」。いじめを受ける側にとっては、いじめ加害者が得ているオーバーサンクションの報酬など想像がつきませんから、いじめを受ける側は自分がいじめを受ける理由について深刻に悩みます。

しかし悩んでも答えは出ません。出るはずがないのです。あいまいかつ変化するのですから

ここから被害者は終わらないいじめの理由探しに神経をすり減らすことになります。

自分の中をひたすら探って、悪いところ探しをするようおとしいれられているわけですが、悪いところ探しをすればするほど疑心暗鬼になり自分で自分が信じられなくなります

その結果いじめの被害者は深い自己否定に陥ります

  • ◯◯だからいじめられるんだ

    いじめられる自分が悪いんだ

という自己否定感を持ってしまいます。
他にも、

  • 自分はいじめという人格否定を受けるに値する

  • 自分は周りの全ての人間から嫌われている

などが代表的な被害者の心理です。いじめ加害者が脳内報酬の快感に酔いしれている一方で、いじめ被害者は終わらない自己否定の闇に突き落とされているのです

参考:アンケートでわかった!知られざる“いじめ後遺症”

いじめ被害者の自己否定観は、いじめが終わった後も続くことが知られています。

イギリスで行われたコホート研究によれば、いじめ被害者のいじめ後の心理を調査したのですが

  • 自殺傾向はいじめを受けていない群に対し30年後で2.21倍

  • うつ病のリスクは30年後で1.95倍

  • 23歳と50歳で一般的な健康状態の悪さの評価がそれぞれ1.47倍、1.63倍

という結果が出ています。(滝沢,2014)

いじめは人生に深い影を落とすのです。

総括・だからいじめは絶対悪

いじめは人生全般に波及する深刻な悪影響を受けた人に与えます。

いじめ加害者はオーバーサンクションによって引き起こされる脳の報酬系の快感を得たいために被害者に壮絶な苦しみを与えていじめを行います。

また、いじめは人間関係の衝突や欠点の修正ではありません

だからいじめはいじめる加害者が絶対悪と言えるのです。

参考文献
ヒトはいじめをやめられない,中野信子, 2017
Adult Health Outcomes of Childhood Bullying Victimization: Evidence From a Five-Decade Longitudinal British Birth Cohort, Ryu Takizawa, 2014

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