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即興小説 お題 イマジナリーフレンド

 こんにちは。この間『leave』という短編を投稿したのですが、https://note.com/bright_murre477/n/n0c798971ddc7?sub_rt=share_pw

それをコニシ木の子さんに紹介していただきました。ありがとうございます。

https://note.com/moto2_hero/n/n025a94fc25b1?from=notice

 今日の小説も前に既刊に収録したものですが、これもよく分からないので #なんのはなしですか  に参加させていただきます。どうぞよろしくお願いします。


 学校が終わってぼーっと1人で帰っていると
「おまはん、おまはん」という声がした。
 辺りを見回すと、何か小さい人のような物がふよふよと空中に漂っている。背中には虫のような羽が生えていた。

 ……何だ、 これ。幻覚か? 目をこすってみるが、消えるどころかジジジ、と近づいてくる。

「あの、わっちに見覚えがありやせんか?」
などと言い出した。
「いや……全然」
 つい返事をしてしまった。大丈夫かな。変な動物になる呪いをかけられたり、魂を取られたりしないだろうか。

「そうですかい……」
 《それ》はなんだか残念そうにしている。特に害はなさそうな様子なので、思いきって聞いてみた。
「君、何なの。幻? それとも想像上の友達かい」
「なんですかい、そりゃあ」
「自分が作った人物だよ。本当は実在しない」

「わっちは蝉(せみ)の妖精でやんす」
 《それ》は胸を張り、得意そうにそう名乗る。

「……はあ?」
 何だそりゃ。そんな物がいるの?
「イマジナリーフレンドが好きならそれでもええですけど」
「べつにそういうんじゃ」
「それなら人間強度が下がらんとか?」
「……!?」
「いや、その手があったか、みたいな顔をされても」

 ねえ、この生き物、やたら流暢(りゅうちょう)に喋るんだけど。そういうものなの?
「なんでそんな事に詳しいんだ」
「あっちの世界でちょっと仲良くなったある国のお姫(ひい)さんが、そういう話をされとってですね。その方の主(しもべ)がそう言っとったと前に聞いたんで」
 ふうん、と思う。変わった人がいるもんだな。

「で、蝉の妖精?が何の用だい」
「わっちはおまはんに命を救ってもらいやした。半年前に、猫に捕まっとった所を助けられたでやんす」

 そんな事したっけか……? セミは夏の終わりにたくさん落ちていた気がするけど。
「まあ、わっちがお礼を言いたかっただけやからええんですけどね……」
「お礼って、 何かしてくれるの」
「わっちは神さまにこっちに来さしてもらうだけで精一杯で、何かお願いを叶えるとかはでけしまへん。でも、出来る事やったらええですよ」

 僕は考えこむ。セミでできる事ねえ──
「あ、そうだ」
 ある考えが頭にひらめいた。

「君を口の中に入れてみてもいいかな」
 とたんに妖精の顔が、ギチッと固くこわばった。
「わっちを食うってことですかい……?」
と言いながら、そろそろと距離を置こうとしている。

「そうじゃないよ! 小さい人を口に入れたら、どんな感じかなって前にちょっと思った事があったから──」
と否定している僕に、疑いの眼差しを向けた。
「おまはんは変わった性癖(せいへき)を持っとりますねえ」
「別に……! 絶対って訳じゃないしー。 好奇心で言ってみただけだから」
「残念でやんすが、わっちは実在せんので無理でやんすね」
「そうか、しょうがないな」
と言いながら、妖精の羽をつかんでみる。すると指先にたしかな感触があった。

「…おかしいな。さわれるぞ」
「いや、これは──」
 妖精は気まずそうに口ごもる。
「幽体化もできるという意味で……アブラゼミの兄弟なんかは普通におまはんの仲間にようけ食われとりますし、そいつはちょいと……」
「食べないけど、ムリ?」
「そうでやんすね……すんません」
 ならあきらめるか…残念。

「そういや、なんでそんなしゃべり方なの?」
「わっちの母ちゃんが岐阜生まれでして。うっかり長距離トラックに止まってここまで来たんでやんす」
「ふうん」
「他に願い事とかないんすか。あ、ほんまに友達になりやしょうか」
「……いや、いいよ」
 頭のおかしい奴だとみんなに思われたら敵(かな)わない、などと考えているうちに妖精の姿が薄くなってきた。

「なんか君、おかしくない?」
「……あっ! もう時間でやんすか」
「時間制限なんてあったの⁈ そういうのは早く言ってー!」
「すんません。お礼だけ言うとこ思っとったんで……」
と言っている間も、しだいに透明になっていく。

「ほんまおおきにー」
 そう言いながら妖精は消えていった。

 ──やれやれ。期待だけさせといていなくなっちゃったよ。
 まあいいかと僕は空を見上げ、冷たくなった指先にハアと息を吹きかけて温めた。

  了

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時雨
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