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3つのお題 即興小説⑧ 弥太郎と牛

 あるところに、男がいました。彼は弥太郎といい、一頭の牛を飼っていました。
 彼はその牛を大切に育てており、牛の乳や作ったわらじなどを売って生活していました。それほど金持ちではありませんが、男一人と牛がそこそこ食べるくらいは稼いでいました。
 ある日、牛がこう言いました。

「いつも世話をしてくれてありがとう」
「いやいや」

 急に牛がしゃべりはじめたので大変びっくりしましたが、そう返しました。

「あなたはいつもいつも私を大切に扱ってくれました。本当にありがたく思っています。
何かお礼をしたいので、金槌(かなづち)を作ってくれませんか」

 弥太郎はそんな物を作った事がなかったけれど、知り合いの鍛冶屋(かじや)に行って見よう見まねで作ってみました。

「それを使って、鉄で猫を作ってみてください」
「そんな事はした事がない」
 そう言って断ろうとしましたが、

「大丈夫ですから」
と牛が言うので、仕方なく作ってみました。
 すると、とても上手な猫の置物が出来ました。丸くなって眠っている形なのですが、本当に生きているように見えました。

「それを街で売ってみてください」
 彼はそれを持って、他の品物と一緒に売ってみました。猫はとても高い値段で売れました。

 帰ってきて、それを牛に言うと
「他にも金槌で何か作ってみてください」
と言うので、机や棚、椅子などを作ってみました。男はそれまでそんなものを作った事はありませんでしたが、どれも出来が良く、丈夫でいい品でした。

 また街に行った時に売ると、評判がよく、どれもみな飛ぶように売れました。
 そんな風に商いをしていたら、だんだん裕福になり、いい暮らしができるようになりました。
 弥太郎は大変喜びましたが、牛の世話はだんだん疎(おろそ)かになり、牛はしだいに痩せ細っていきました。

 ある日彼が牛舎に行くと、牛は倒れて死んでしまっていました。彼はがっかりしましたが、それほど悲しみませんでした。
「まあ、金槌はあるし大丈夫だろう」

 ところが、それ以降は金槌で何か作っても、なぜかよい品物を作れなくなってしまいました。牛が死んでしまったので、金槌の不思議な力が消えてしまったのです。それで、だんだん貧乏になって食べていくのもやっとになりました。

 彼は
「ああ、残念だ。牛も何もかも失ってしまった。前の暮らしで十分だったのに。あれは本当にいい牛だった」
と嘆きました。けれど、今さらどうにもなりませんでした。

 以下の三つで即興小説を書く
「牛」
「金槌」
「ネコ」


 了

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時雨
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