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3つのお題 即興小説⑩ 憧れ
「あー、ハワイ行きてえな」
俺は騒がしいバラエティー番組が映るテレビの画面をぼんやりと眺めながら、ぐいと缶ビールをあおった。
職場のいつもの通り道に旅行代理店があり、店頭に並べてあるいろいろな地方の名前の載ったパンフの中に『ハワイ』というのがあって、なんとなく目に止まったのだった。物思いにふけりながらぼんやりとタバコをふかす。
昔、小学校の同級生だった奴が中学の修学旅行がハワイだったと、しきりに自慢していたのを思い出した。そいつはみんなと違う学校に行ったので、海外だったようだ。
海が綺麗だったの外人がたくさんいただの、得意げにペラペラと喋っていた。俺たちはそいつが持ってきたアカデミアナッツチョコをかじりながら、半分くらいしか聞いていなかった。俺が
「そういや、なんでハワイはこれがお土産なのか知ってるか」
と聞くと、きょとんとして
「ハワイでマカデミアナッツが作られているからじゃないのか」
と言う。
そうじゃねえよ、ある日系人のタキガワって人がハワイの美味しいお菓子を何か作ろうとして、マカデミアナッツが美味かったからそれを何かと組み合わせようと試行錯誤したんだよ。
それでマカデミアとチョコの相性がいい事に気づいて、ナッツに合うチョコを改良し、マカデミアチョコを売り出した。
その頃ハワイに来た観光客たちの間でおいしいと評判になり、お土産として定着したんだ──という話を俺は始めたけれど、彼は途中でハイハイと言ってまた自慢話を始め、他の奴らはぼんやりとそれを聞いていた。
南の島だと、サイパンくらいしか行った事がない。前の仕事をしていた頃、地元の仲間たちとどこかへ行こうと、5日ほど旅行した。日本語も大体通じたし、店も日本のチェーン店などがあったので楽だった。
朝に海辺で散歩していたら、放し飼いになっていた大きな犬が追っかけてきて、夢中で逃げたらサンダルが片っぽどっかに行ってしまったりしたな。命からがらホテルへ帰って、遅く起きた友人にその事を話したら、死ぬほど笑われてとても不快だった。
また別の日に仲間達でブラブラしてたら、道端でBBQをしている人達がいて
「Hi,」とか挨拶してくれたれど、俺は英語ができないからヘラヘラ笑ってそのまま通り過ぎちゃったんだよな。きっと話せたら一緒にBBQできただろうなあ…などとつらつら思った。
どこか行こうにも忙しくて行けないので、せめて雰囲気だけでもと、「登別の湯」とか「別府の湯」など入浴剤を買ってきて風呂に入れてみた。
湯に入り、
「なるほど…」
と呟く。柚子か何かの柑橘の匂いがほのかにした。白く濁ってたしかに温泉っぽい。目をつぶると野湯に入っているような気分になる。
が、目を開けると狭くて年季の入った風呂場の壁などが飛び込んでくるからもうだめだ。
電灯を消すのも、下が見えないと危ないので断念した。ロウソクを持って入るのも、何だか男らしくない気がする。疲れたOLかよ。30代半ばのおっさんがやっていたら、黒魔術の儀式でもしているのかとギョッとされてしまう。
昔は上場企業に勤めていたが、転職して今は日雇いの工事現場で土方をしているから給料も安くなってしまった。
けれど、いつか返り咲いてマカデミアのタキガワみたいに成功してやると、腹の足しに噛んだガムをぷうと膨(ふく)らませる。
それは思ったよりも大きく膨らんだが、ある瞬間、ぱちんとはじけて消えた。
以下の三つで即興小説を書く
「ハワイ」
「お風呂」
「ガム」
了
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