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黄昏時 #なんのはなしですか ショートショート

 こんにちは。今日は、なんのはなしですか本に寄稿候補だった作品を投稿します。今日もう1つ書いた作品の方が出来がよさそうなので、そちらを本田さんにお送りする予定です。そちらもよかったらどうぞ。

黄昏時

 ある日の事。朝になっても起きられず、僕は会社をサボってしまった。こういう日が月に1、2回はあるのだ。起きようとしても体がまったく言う事を聞いてくれない。何とか力を振り絞って
「すみません、今日は休みます」
と連絡したが、その後は泥のように眠ってしまった。
 目が覚めるとすっかり太陽は昇りきって、昼もとうに過ぎている。

「…腹へったな」
と呟いてずるずると布団からい出た。冷蔵庫を開けてみるが何もない。そりゃそうだ、いつも夜遅くまで残業して朝もほとんど何も食べずに出て行くのだから。
「何か買ってくるか」
 パーカーとジーンズに着替えてコンビニへ行く。適当に弁当とお茶を買い、ぶらぶらしながら帰った。途中に公園があったので一服しようとベンチに座る。

 さっき買った缶コーヒーをひと口飲んだ。ぼんやり風景を眺めていたら、ジャングルジムのてっぺんに誰かが座っている。
 若い男──おそらく僕と同じ歳くらいの人物が、そこで食事をとっていた。パンでも食べているかと思ったが、手にしている物はピンク色だった。

「?」
 よく見るとそれはフワフワと微妙に動いている。わたあめかと思ったが、男はそれをスーッと吸い込み、しだいに小さくなっていく。全部食べてしまうと、そばにある黒いカバンから何かを取り出した。今度は青色で、やはりフワフワした丸いものだ。男は同じように吸い込むと、腹をなでて満足そうな顔をする。
 ふと顔を上げ、バチッと目が合った。しばらくそのまま見つめ合う。

「──おや、」
 男はそう言って目を細めた。
「こいつは驚いた。お前、俺が見えるのか?」
「えっ」
 どういう意味だろう…うろたえていると、男はふーんと呟いてジャングルジムからぴょんと飛び降りる。そしてスタスタと近づいてきた。
 何か悪い事でもしただろうか。なんだか怖い。たじろいでいるともう目の前にいた。じっと顔を近づけてくる。
 座っていた時は気づかなかったが、男の腰からは黒いフサフサの尻尾が生えていた。それが左右にはたはたと揺れている。何者なんだ、一体…⁈ まさか…

 ──こいつ、人間じゃないとその時やっと気がついた。見た目は人にそっくりだが、鋭い犬歯が口からはみ出しているし、瞳孔が猫や虎みたいに縦に走っている。僕の像を映しながら、それがキュウッと閉まった。
「俺が喰っていた物が気になるのか?」
と聞かれ、おそるおそる頷く。
「あれは人の言葉さ。ピンクは誰かを想って話したやつ。青は悲しみ、黄色は赤ん坊の喃語なんご
他にもいろいろあるが、俺は寒色系が好きかな。他の奴は知らんが」
「へ、へえ…」
と冷や汗をかきながら答える。
 彼は犬歯を見せながら、チェシャ猫のようにニィーッと笑うと
「まあ、今日の事は忘れてくれ」
と横を通り過ぎ、ついでにポンと肩を叩いていった。そうっと振り向くと、彼は公園を出た直後にスーッと姿が消えてしまう。

「…えっ?」
 思わず目を見張ったけれど、見当たらない。物陰に隠れたのかと思い探してみたが、やはりどこにもいなかった。

 もしかしてタヌキに化されたんだろうか… それとも幻? ポカンとしながら考えたが実際のところは分からない。
 太陽は地平線の向こうへすっかり沈み、まもなく夜が訪れようとしていた。

                                  了

#どうでもいいか
#なんのはなしですか

 最後まで読んでいただきありがとうございました✨
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時雨
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