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不適切 目の色(ゲ謎二次創作 父水)

 わーん、と鬼太郎が泣いた。水木は眠い目をこすりながら身を起こす。
「どうした? 腹でも減ったか」
 抱き上げてトントンと背中を軽く叩くと、ふえふえと眠たげな声を出す。うとうとしながらあやしていると、後ろからふわっと抱きしめられた。
「水木…」
 一瞬びっくりするが、誰だか分かって胸をで下ろす。
「起きたか? わりい」
「お主も明日早いのじゃろ?」はよ寝ろと口では言うが、腕をほどかない。

 水木とゲゲ郎は、鬼太郎を2人で育てていた。始めは部屋の借主とただの同居人だったが、次第に深い仲になる。きっかけは特にこれといって無いが、一緒に住んでいるうちに自然とそういう事になった。

 世間では夫婦ではないし、この関係を何と呼ぶのか名前はないが、異性ではないため何となく後ろめたい気持ちではあった。
 けれど、水木はゲゲ郎に対して、今まで誰にも抱いた事のない感情を覚えるようになっていたし、もし誰かに聞かれたら恋人と答える心づもりだった。彼はどう思っているのか分からないが──

「どうした?」
 そう聞かれ、ハッと我に返る。腕の中の子はうとうとしかけていて、今にも夢の国へ旅立ちそうな気配だった。
「いや、」
 小さく返事をして、そっとふとんへ下ろす。彼はふっと意識を戻しそうになるが、胸の辺りをとんとんとリズミカルにたたくと、再びとろとろと眠りに落ちていった。
 自らもぼんやりした頭でホッとすると、背中にこてんと頭を乗せられる。
 振り向くと、半分閉じた目で彼がこちらを見ていた。

「お前も寝かしつけられたいのか…?」
 そう問うと、ふにゃりと相好を崩す。
 水木よりも何百年も年を重ねているはずなのに、その様子は幼子のようだった。
 クスリと笑い、その背中に腕を回す。
「よしよし」
 ふざけて言うと、もそもそと身を起こしてこちらを見た。
「なんじゃ、子ども扱いしおって」
「実際そうだろう」
 そう返すと、すこしむうとした顔でジト目になる。
 水木は彼の赤い目を見つめた。小さな瞳孔どうこうだけど、血のように紅く美しい瞳。そこに小さい水木が映っている。自分の蒼い目も移り、色が混じり合ってアメジストのような色になる。

 その輝きに目を奪われていると、ちゅ、と彼の口がふれた。
「触れてほしいのか?」そんな風に見つめて、と言われる。
 そんなつもりはなかったが、唇の感触が心地よくて自らも顔を寄せた。口づけを何度か重ねるとそれだけでは足りなくなってその胸にしがみつく。

「お主の方がわらべのようじゃぞ」
 その言葉は聞き捨てならないが、声の響きや甘さにうっとりしてまぶたを閉じる。肩書きや言葉なんてどうでもいい。俺はこの大きな背中や腕にずっと抱きしめられていたい──
 そう思いながら、ふわふわと夢の中へ落ちていった。

   了

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時雨
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