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#noteでBL 凍えそうな夜に

 こんにちは!また #noteでBL を書かせていただきました。企画していただいたなみさん、楓莉さん、ありがとうございます!🙏✨
 今回もけっこう参加者さんが多そうですね。なみさんのくじの引きの良さと人格の大きさよ…(めてる) ワクワクしながら書いていました。
 出てくるキャラは前回と同じ3人で、設定を簡単に置いておきます(読まなくても大丈夫です)

・ナオ:腕ききのプログラマー 頭がいい 身長190センチ位 人付き合いが苦手
・カイ:ナオの想い人 あまり表で言えない仕事をしていた。今は塾の講師。
ササハラの事が好き セッ…依存症で男でも女でも来る者は拒まず
・ササハラ:ノンケだがカイの元恋人。ほだされて付き合った。未練はあるが、カイが誰とでも寝るのは受け入れられない。元四課の刑事

 今回5千字ギリギリでした。どのくらいで読めるのか…1分で600字として、8分ちょいで読めると思います。
 これからもこの3人で続くか不明ですが、前回の続きとしてお読みいただいて結構です。初回はここから↓ 今回のから読んでもらってもたぶん大丈夫です!
https://note.com/bright_murre477/n/ndfc142164aa1

***
 僕はコタツに入りながら、てきぱきと鍋の用意をしているカイを眺めていた。

「こういうのって、何かいいよねえ」
「じろじろ見んな気持ちわりい」
 口ではそう言っているけど、照れ隠しのようだ。その後じっと見ていても、ぶつぶつ言いつつ白菜を切ったり出汁だしを取ったりしている。

「てか、お前も手伝えよ」
「えー」
と文句を言いかけるが、お宅にお邪魔したうえ料理まで作ってもらうのも悪いので、しぶしぶ腰を上げる。

「何すればいい?」
「じゃあ椎茸の軸を切ってくれ」
「え…しいたけ嫌い」
「何でも食えよ。鍋に入れたら大体うまいだろ」
 そうかなと思いつつ包丁を手に取る。

 今日は大晦日みそかで、僕はまた彼の家に押し掛けていた。予定を聞いたら
「多分ないけど、ゆっくり過ごしたいから来るな」
と言われて迷ったが、訪ねてみたのだ。ロビーで部屋番号を押したら応答したので
「ナオです」
と名乗ったら無言だったけど、意外とすんなり通してくれた。すごく嫌そうな顔をして。

「本当に居たんだ」
「居たら悪いかよ。俺の家だぞ」
「そうだね。ごめん」
「…突っ立ってないで入れば」
 ハァとため息をついた後、中へ入るよう促す。礼を言ってお邪魔した。

 彼は基本的に1人が好きだが、押しに弱いので甘えるとたいてい許してくれるのだ。ついそれに寄りかかってしまう。

「これ、よかったら」
とスーパーのレジ袋を渡した。
「お、わりいな」
 すげえ美味そうな肉、と言いながら中を覗いている。
「2人で食べたら美味しいかなと思って」
 君となら尚更、と思った事は口にせずにっこりする。

「じゃあ夕飯に食おうぜ」
 さっきまでの態度とは別人みたいな笑顔になった。コーヒーを飲んだ後、鍋の準備を始める。

「もうやるの?」
「用意だけしといて、時間がかかるのは煮込めばいいだろ」
 鍋は火を入れとけば出来るからいいよな、と具材を要領よく切っていく。楽しい夜になりそうな予感に僕はうきうきしていた。

「コタツがあるなんて思わなかったよ」
「冬はやっぱりこれだろ。カーペットや他の暖房器具より断然あったかいし食事もできる」
 ちょっとオジサンくさいけど確かに居心地いいし、蜜柑もおいしい。こういうのを天国って言うのかななんて思ったりした。
 と、窓の方で物音がする。なんだろうと思ったら、茶色い何かがそこにいた。
 え、何。動物…?

「何かいる」
「は?」
 僕が指さす先を、カイが見る。
「え、犬…マルチーズ?」
「君が飼ってるの」
「まさか。あんま家にいないし、世話なんかできねえよ」
「じゃあ、どこの…」
「てか寒いんじゃね」
 犬はワンワンと吠えているようだ。防音ガラスでよく聞こえない。たしたしと窓を引っき、入れてくれと必死に訴えている。
 カイは回転錠と下の防犯ロックを外して窓を開ける。すると、勢いよく中へ入ってきた。

「うわ! すっごい震えてる」
 カイは興奮して走り回る犬をなだめ、腕に抱き上げるとそう言った。
 フサフサで、両手に包み込めそうな大きさだ。キャンキャンと鳴いてはしゃいでいる。
「どこから来た?」
 カイがそっと顔を寄せた。
「危ないよ! 噛まれるかも」
 僕は動物が好きじゃない。特に犬は苦手だった。幼い頃、放し飼いの大きなドーベルマンに追いかけられて以来、避けているのだ。
「でも人懐っこいぜ、こいつ」
 迷い子かなと頭を撫でている。犬はクーンと鳴くとその手をペロペロ舐めた。
「うわ、くすぐったい」
と笑っている。それを見ていたらなんだかムカついてきた。
「もう外に出しちゃえば。飼い主が探しているかもしれないし」
「けど、今日はめちゃくちゃ寒いぜ。凍死するかもしれねえだろ」
「大体どこから来たんだろう」
 腹の虫が治まらないまま、疑問に思う。

「ベランダは部屋ごとに防火扉で仕切られてるけど、下が空いてるからそこから入ったのかも」
 カイはベランダに出て隣の部屋を伺い、戻ってくる。
「明かりが点いてない。多分出かけてる」
「その人が飼ってるのかな。その向こうや反対側は…ここが一番端の部屋だっけ」
「だから隣かその隣、もしかしたら3軒向こうかも。でも、前に犬の鳴き声を聞いた気がする。隣なのか確証はないが」
 彼は少し考え込む。

「じゃあ、後で聞いてみるわ。お前、俺が鍋の準備するまでこいつの相手をしといてくれ」
「ええ…」
「じゃあお前が作るか?」
「…お世話させていただきます」
「よし」とカイはまた作業を始める。
「僕は何をしたらいい?」
「とりあえず、足を綺麗にして暖かくしてやって」
「シャワーで?」
「いやいいよ、雑巾ぞうきんで」
「どこだっけ」
と洗面所の方を探す。
「あー、もういい、俺がやる」
 僕はシュンとなって、忙しそうに犬の世話やら何やらをする彼を見守っていた。犬の足を洗い、暖かい濡れタオルで体を拭いてやっている。マルチーズは嬉しそうにお世話をされるままになっていた。
 腹も減ってるみたいだな、とカイは犬の胴体を見て言う。

「コンビニでも行ってくるか。
お前、ドッグフード買ってきて。多分売ってるから」
「ええ? なんで僕が」
と言うと、黙って力こぶを見せてきた。
「…行ってきます」
 しぶしぶ彼の家を出る。
「──思ってたのと違う」
 歩きながら独り言を言う。今頃は2人で楽しく鍋をつついているはずだったのに、どうしてこうなった。
 部屋に戻ると、カイはコタツで犬を膝に乗せて和んでいた。
「鍋は?」
「もう出来てる」
 さすが手際がいい。
 はい、と犬用の缶詰を渡した。
「食うかな」
「分かんない」
 缶詰を皿に開ける。犬を下ろすとフンフンと匂いをかいだ後、食べ始めた。
「よかった…」
 彼はほっとした顔をする。
「とりあえず鍋を食っちまおう」
 手を洗って、いただきますと食べ始める。犬は餌を食べた後、部屋を歩き回っていた。そのうちカーペットの上がいいらしく、座りこむ。
「テレビつけようぜ」「ん、」
 僕はリモコンのボタンを押す。紅白がすでに始まっていた。時々見かけるよく知らない男性が、流行りっぽい歌を熱唱している。

「これを見ると年末って感じがするな」
 今年はいろいろあったなあと振り返った。カイとは去年からだけど、こうやって家でご飯を食べたりエッチしたり…初彼氏だと思ってたのに、セフレだって分かったり──って何だか、彼の事でばかり右往左往している気がする。

「今年はいい年だった?」
 鍋をあらかた食べて満足したようで、次は雑炊を作ろうと、洗ったご飯を入れている彼に聞く。

「んー…まあよかったんじゃね」
 すごく適当だ。けれど、そのよかった事の中に、僕と過ごした日々も入っているといいな。
 犬はいつの間にかカーペットからまた彼の膝の上に収まっていた。

「犬とか猫ってさ、頭をこうやって載せてハミングすると気持ちいいらしいぜ」
 そう言って顎を犬の頭に載せ、んーと声を出す。
「頭蓋骨に響いて気持ちいいんだと」
 確かに声が響きそうだけど。ハミングというより、獰猛どうもうな熊か何かが唸るような声を出すのを呆れながら見ていると、犬は従順に目を閉じていた。カイの声は耳ざわりがいいから、余計に気持ちいいのかもしれない。
 そんな事を思っていたら、またモヤモヤしてきた。

「ねえ、もう雑炊できてるんじゃない。食べる?」
「お、頼む」
 取り分けると、犬が呑水どんすいを覗こうとする。
「お前も食いたいのか?」
と彼が少しつまんで手のひらに載せると、ペロペロとおいしそうに食べ始めた。

 おいお前、そこ代われよ。
と思わず言いそうになってしまう。彼の膝に載って優しく頭を撫でられ、その手から直接飯を食べるだと? そんな贅沢、許せない。
 怒りで立ち上がりかけた時、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「⁉︎」
 2人で同時にそちらを見る。
「誰?」
「知らねえ」「約束とかしてないの?」「今日は誰ともしていない。お前とも」
「それはいいから!」
「…とりあえず、出てみる」
 飼い主かもしれないし、と神妙な顔でインターフォンに出る。
「──はい」
「……ササハラです」
「‼︎ ちょっと待って」
 カイはそう言うと、こちらへ戻ってきた。
「お前、帰れ」
「え?」
「いいから帰れ」
「いや、ちょっ待って、今帰ったら鉢合わせするんじゃ」
 彼はそうだった、という顔をした。切羽詰まった状況にも関わらず、意外と抜けてるよなこの人、と頭の片隅で思う。
「じゃあ、あっちの部屋に行ってろ」
「え、まだ雑炊食べてない」
「いいから!」
 ぐいぐいと押され、クローゼットのある部屋に入れられた。いったんドアが閉まったと思ったらまた開いて、僕のコートやカバンを投げ込まれる。
「⁈ 何、いつまでここに居ればいいの」
「静かに! いいって言うまで出るなよ」
 そう言うとカイは去ってしまう。怒涛どとうの展開に唖然としてしまった。

 ササハラさん、カイとよりを戻したの…? でも、来るのを知らなかったみたいだしどうなってんだろう。え、もしかしてリンチされたりしちゃう? でも今日は僕の方が約束…いや、してなかった! 勝手に押しかけたんだった。
 でも、せっかく一年の締めくくりを一緒に過ごせると思ったのに…

 暖房が入っていないので体が冷えてきた。エアコンをつけようとしたけど、室外機の音やら何か物音を立てて、誰かがいると気づかれたらまずい。
 僕はコートを着込む。一刻も早くカイが呼びに来てくれる事を願いながら。

 ***

「よう」
 ガチャリとドアが開いて、声がした。
 僕はぼんやりと顔を見上げた。いつの間にか眠ってしまったらしい。一瞬どこにいるのか分からなかったけど、だんだん状況を思い出す。
 体がかじかんで、あちこちが強張っている。よく凍死しなかったな。まあ、断熱材が入っているマンションだから着込んでいれば大丈夫だろうけど。でも、硬い床の上で一晩過ごすのは勘弁してほしい。

「…彼は?」
 聞きたくなかったけど、身の安全のため確認する。
「もう帰ったぜ」
と答えた。ていうか、なんなのそのニヤケ面? 今まで見た事がないくらい嬉しそうなんだけど。あと、お肌がツヤッツヤしてませんか? そして全身からいつもより増し増しのフェロモンとか気怠だるげな雰囲気がダダ漏れなんですけど??! 僕を閉め出して、お二人で何をされていたんですかー??!!
 と、問い詰めたい気持ちでいっぱいだったけど、やっぱりササハラさんに殴られたりシメられたりするのは真っ平まっぴらだし、もう居ないと聞いてほっとしたので
「…そう」
とだけ言った。
 ──でも、好きな人を寝取られるのはやっぱり腹立たしいし、悲しくて口惜しい。

「寒かったんですけど」
「…わりい。なかなか帰らなくて」
 引き止めたのは君の方じゃないのと聞きたいけど、もし本当にそうだったらと思うと怖くて聞けない。というか、ササハラさんから見たら僕の方が間男だよな…

「彼が来るって知ってたの?」
「いや、それはない」
 本当かなあ。疑いの眼差しを向けると
「知ってたらお前を家に入れなかった」
と答えた。
 まあ、それはそうか。鉢合わせしたらまずいもんな。というか正にそうだったけど。
「ふーん」
 僕は固まった体をほぐそうと、首を回す。
「風呂、入るか?」
「じゃあ、シャワーだけ」
 風呂から出た後、初詣に行こうと無理に誘い、近所の神社へ行く。カイはマフラーでぐるぐる巻きにしていたが、鼻先を赤くしていた。細マッチョなのに寒がりなのはかわいいけど、まだ感情の整理がつかないので無言で歩く。
 その神社はわりと有名どころで、早朝でも人気ひとけが多かった。線香を買って、大きな常香炉にべ、煙を頭や体にかける。そして境内へ向かった。参拝をする列に並び、少しずつ進む。
 賽銭さいせんを投げ、柏手かしわでを打った。目を閉じて祈る彼の横顔をちらりと見る。何を祈っているんだろう。もしかしたら、ササハラさんとの事を…
 いや、と僕は首を振る。今は2人きりだし、初詣は僕とが最初なんだから、そんな事を考えるのはそう。もしもカイの心が彼の方へ傾いているとしても…

「いつまで拝んでんだよ、行くぞ」
と彼は歩き始める。
 巫女みこさんが、どうぞと甘酒を参拝客に渡していた。
 カイは笑顔でそれを受け取る。僕も「ありがとう」と言い、ゆっくりと飲んだ。じんわりと、優しい暖かさと甘さが体に染み込んでいく。

「やっぱり正月の甘酒は美味えな」
とカイがつぶやいた。僕はそうだねと返す。
 君の心が誰のものでも、今この時だけは僕のものだよ。

               了


一年の振り返り、マルチーズ、ハミング
の3つのお題でBLを書く

 思ったより長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました! 
 そしてマルチーズがどっかへ行ってしまった() 多分お家でおとなしくカイの帰りを待っています。隣の家にも張り紙をして『犬を預かってます』と伝えて自宅のドアにも『迷い犬を預かってます』と張り紙に書いているので、そのうち飼い主は見つかるでしょう(適当)
 他の方の作品はここから読めますので、よかったらどうぞ↓


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時雨
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