午後の地上の室内で 鬼りんご
午後の地上の室内で
或ひは近代の遺産例
すつと灰色にリリカ先生が立ち上がり思はず私はおもらしするやうにだらしなく花びらをとめどなくこぼし続けて止まらなかつた 静けさだつた 花びらは床に落ちきるのも忘れひとひらひとひらがおのおの曖昧な高さに呆然と浮かび漂ふばかりだつた ひとは竟に救はれるべきものだらうか 問の外部には犯人のうひうひしい汚れのくちびるが歪み 無精髭も鉄格子の窓もやはり灰色に軋んでゐた 冷え迫る室内にたそがれゆく背中だけが私たちだつた 殺意に近いほどの無臭の純情をよく抑へきつてゐるかと見えるあなたの眼差しにまだ気づけないままに さうだたぶんもう遅いのだと誰もが覚つてゐるはずだつた 既に世界中を覆つてゐたせゐで誰にも聞き取ることができなかつた硬い青い音の鐘がほら鳴り了つてゐるではないか
すっと灰色にリリカ先生が立ち上がり思わず私はおもらしするようにだらしなく花びらをとめどなくこぼし続けて止まらなかった 静けさだった 花びらは床に落ちきるのも忘れひとひらひとひらがをのをの曖昧な高さに呆然と浮かび漂うばかりだった ひとは竟に救われるべきものだろうか 問の外部には犯人のういういしい汚れのくちびるが歪み 無精髭も鉄格子の窓もやはり灰色に軋んでいた 冷え迫る室内にたそがれゆく背中だけが私たちだった 殺意に近いほどの無臭の純情をよく抑えきっているかと見えるあなたの眼差しにまだ気づけないままに そうだ たぶんもう遅いのだと誰もが覚っているはづだった 既に世界中を覆っていた所為で誰にも聞き取ることができなかった硬い青い音の鐘がほら鳴り了っているではないか
(「こどもだま詩宣言」対応 原文縦書き)