土の中の子供 中村文則
冒頭にタクシー運転手の主人公が散歩中、自動販売機にたむろしている 暴走族にタバコを投げつけるところから小説は始まります。
当然集団リンチに合い傷だらけになって帰宅するのですが、そのような 高いリスクをわかっていながら自分の感情の通りに行動してしまう人という 設定です。
そしてこの小説の白眉は最後のほうの場面で、主人公はタクシー強盗に 合いますが、強盗の隙をみてなんとか逃げ出し、自分のタクシーに乗って 逃げます。
しかし運転を誤り、カーブを曲がり切れずにガードレールに激突し重傷を 負って病院で目が覚めます。
見舞いに来た同棲中の女性に本当は曲がりきれたんじゃないか? と言われて答えたことが
「ぶつかっていく間、すごく自分に自分が合わさっていくような 気がして、止まらなかった」です。
これは冒頭のように暴走族にタバコを投げつけるとどうなるかわかっている 自分と、それでも実際に投げつけてしまう自分がガードレールにぶつかる 瞬間の
「あぶな~~~~~~~~~~い」のこの~~~~~~~~~ 部分の時だけやっとその相反する自分が重なって一人の本当の自分として 生きている実感が得られるがためにハンドルをきれなかった感覚というのが私の実存感覚とぴったり合いあいすぎて好きな作品になりました。
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