見出し画像

「好き」の因数分解|No.1 魔女の宅急便

魔女の宅急便

私はココを必要としている。けれど、ココは私を必要としていない。自分のことを誰も知らない場所に身を置きたい、そう思って仙台に来たのに、自分が誰にも認識されていない現実に恐ろしくなった。私がいなくてもこの街は全くもって何も変わらないし、私がいなくなったことにさえ気づかないのだろうと考えたら、何だか不安になった。5年前、私はよそ者とも認識されない「よそ者」だった。私はここにいるよ。そうつぶやいても、聞こえてくるのは隣の住人の咳き込む音だけだった。2020年、静まり返った部屋にて。カーテンさえ開けることができない。

最後に『魔女の宅急便』を真剣に見たのはいつだっただろうか。実家のテレビの枠が思い出されるのだから、きっと5年以上前なのだろう。そのときは、そんなにも泣かなかった。感情移入しなかった。大した根拠もなしに「この街に決めた!」と言えてしまう楽観さ、見ず知らずの通行人に「私は魔女のキキです。この街に修行に来ました。おじゃまさせていただきます」と挨拶をしてしまう律儀さ、風でも嵐でももらった仕事を全うする誠実さ、猫のジジがどんなに不平不満をつぶやいても「大丈夫」とポジティブに変換してしまえる強さ。私は、キキのような底なしの明るさ、優しさ、強さを備えてはいないけれど、キキと自分を重ねてしまう。人と出会い、人を助け人に助けられ、自分の才能を活かして仕事をつくり出し、スランプも乗り越え、コリコの町での「役割」を見つける。トンボを助けたキキは、もうよそ者なんかじゃなく、コリコという町に生きる魔女だった。

There are still some times when I feel a little homesick, but all in all, I sure love this city.
おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。

よそ者がよそ者でなくなる瞬間が好きだ。よそ者がよそ者でなくなることなんてないのだけれど、よそ者のまま、よそ者として、そこにある輪に受け入れられる瞬間は何度味わっても心地いい。その街の人に助けられたとき、その街に情を感じるんじゃないかなと思う。そして、この街で「役割」を見出すことができたとき、すなわち、この街に恩返しする形で自分の持っているものを使うことができたとき、この街とつながることができるんじゃないかなと思う。魔女のキキちゃんが、空を飛ぶという自分の持っているものを使って、荷物を遠くまで速く届けるという「役割」を見出したように。魔女のまま、魔女として、この街に必要とされていく。そうして、「そこ」は「ここ」になり、「ただいま」と言える場所になる。

「一年生」であることは、いつでも嫌いです。「一年生」はいつだって、よそ者だからです。この世界に生まれた1年目、右も左もわかりませんでした。学校に通い始めた1年目、どう振る舞えばいいかなんてまるで知りませんでした。社会人1年目、社会人って何でしょうか。浮いていて、無力で、つながっていないような感覚。ぎこちなくて、不自由で、コントロールが効かないような感覚。私たちはみな、よそ者でした。

そう考えると、この世界は案外、よそ者に優しいようです。「まだ赤ちゃんだから」「まだ一年生だから」「まだ社会人一年目だから」。よそ者というだけで、無力な私たちを助けてくれた人たちがいます。教えてくれる人がいます。私と人をつないでくれる人がいます。思い切って慣れ親しんだ土地を飛び出した次の瞬間は、天気予報も当てにならず、嵐だったりするけれど。よそ者だというだけで、理不尽な目に遭うこともあるかもしれないけれど。手を貸してくれる人は必ずいる。気軽によそ者になってみてもいいんじゃないか。どうやら、この世界は、思ったよりもよそ者に優しく設計されているみたいだから。よそ者のままこの世界に受け入れられたとき、私たちは「縁」という誰にも負けない武器を身にまとい、「私」として、生きる術を身につけているのでしょう。

姉貴

ジブリに出てくるかっこいいお姉さんたちが好きだ。『魔女の宅急便』でいうなら、森で出会った絵描きのウルスラ。『千と千尋の神隠し』でいうなら、湯屋のことを教えてくれるリン。ヒロインのちょっと先輩で、生きる術やその場所での生活について教えてくれるお姉さん的存在。「わかんないことや悩みがあったらいつでも言いな!」という優しさと強さをブレンドした姉貴たち。ときにはそっと寄り添い、ときにはどんと背中を押す。飄々としているようで、深みがある。ああ、思い出す顔々がある。仙台に居場所を見出せなかった私に、そっと手を差し伸べてくれた彼女。脳内縮こまっていた私に、広い可能性と柔軟な考え方をくれた。人生に悩んでいるときに、共感しつつも力強い言葉で勇気を引っ張り出してくれたあの人。こんな人になってみたいと思えた、背中で語ってくれた姉さん。いつか、私だって、そんな「姉貴」になりたいんだ。

ウルスラとキキ

ジブリ映画

実を言うと、『千と千尋の神隠し』が1番好きなジブリ映画だ。子どもの頃、妹と一緒に何度も何度もこの映画を繰り返し見たため、最初から最後までセリフをすべて暗記してしまった。子どもの記憶力、恐るべし。1番好きなシーンは、千尋が階段を駆け降りるシーン。理由はないけれど。家の階段で再現したなあ(笑)。世の中のみなさん、私もですけど、「成長、成長」っていい言葉としてよく言いますが、ジブリを見ると「成長って恐ろしいものだな」と思います。恐ろしくて、一筋縄ではいかなくて、不安定で、尊い。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集