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火と華の国

8
戦国風小説全八話
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#鍋奉行

一、幽世の剣

一、幽世の剣

そこにいた全員が、数十人分の肉塊に目を奪われていた。
とても見るに堪えない光景だが、目をそらすことは出来なかった。
死体。ではなかった。あまりにも凄惨なその光景はそれらが元は生きていた人間だとは思えないほどのものだったからだ。
血の流れる音もなく死を拒絶しようとする断末魔も絶えた静寂の中で漂い始めた死臭だけがそれらがただの肉塊ではなく人の死体であることを主張し始めていた。

爺さんが一振りの刀を手

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三、猪鍋奉行

四ツ蔵は、あの醜悪な大黒がかしこまり、その横に物言わぬ人形のように据え置かれたリンの姿を思い浮かべた。
「いや、それはアカンて…」四ツ蔵は思わずそう呟きながら身を乗り出した。
「将軍と居を同じくするか!!」
陽下将軍が目を血走らせるかに怒りを露わにし、すでに空となっている茶碗を手に掴み振り上げた。
リンと高田が反射的に手で制した。
「母様!」「陽下様!」
既で陽下将軍は茶碗を投げつけるのを思いとど

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