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光るキノコ

反抗期真っ只中の14歳の頃の話。


その日は母が迎えに来てくれる日だった。私は日中にあった嫌な事と折り合いの悪い母の迎えと言うことに鬱々としていた。


迎えに来た母の車は白い小さな軽自動車で丸く不格好で古くて狭く、乗り心地も悪いガタガタ言う車だった。


何故か助手席に嫌味な曾祖母さんが乗っていた。


後ろの席は一応あるが足も置けない程狭い車たった為、中学校の大きな鞄はドコに乗せるの状態だった。


乗り込むには曾祖母さんを一度降ろしてシートを前に倒し座席を前に目一杯移動させて乗り込むしかなかった。


「ほら乗らい」


母が言ったが曾祖母さんはドアを締め私を見ないようにして前を向いてツンとしていた。


どうやって乗んの


ぶっきらぼうに答えると面倒くさそうに母が曾祖母さんに何か言っていた。曾祖母さんは足が痛いから動けないと言っていた。


もういい。


最初から乗せる気なんて無かったのではないのかと、私は怒りとなんとも言えない悲しさとで心が溢れ、2時間かかる家までの道のりを歩いて帰る事にした。


秋の夕方でもうすぐ暗くなる時間帯だった。


頭に血が登った私はそのまま徒歩で歩き出した。母が何か言っていたがそれらをすべて無視した。


多分、わがままだとか言う事を聞かないだとかそんな嫌な的外れな事だったと思う。


それからは薄暗くなりつつある道のりをトボトボ歩いたのを覚えている。


部活が遅くまである野球部の男子が次々に自転車で私を追い抜いて行った。


ムカついたし悲しかったし日中あった嫌な事も増々で思い出されて泣きなくなった。母は私があまり好きではなかった。私も母があまり好きではなくお互いに嫌いだったと思う。


泣きたくなった。


程なくして街灯に明かりが灯り辺りは暗くなってしまった。


家に帰ったら婆ちゃんに全部言い付けてやる。そう思っていた。これも母が私を嫌う要因のひとつだったと思う。


農家の長男に嫁いだ母は次の年には懐妊し周りから長男が産まれるのを期待され、男顔になって来たからきっと男が入ってるだの、腹が前に出てきたから男が産まれるだの言われていたらしい。そして産まれたのが私だったので「がっかりした」と母は私に言っていた。


がっかりしたのは私の方だ。


そんな過去に言われた嫌な事を思い出し、高校を出たら、いの一番に家を出てやると泣きそうになりながら思っていたところにいきなりクラクションを鳴らされた。


パッパッ



びっくりして顔を上げると父が迎えに来てくれていた。



母から何かしら聞いて来たのかとちょっと身構えるも父はニコニコ笑って窓を開けて

「寄り合い早く終わったんだ。なんだ。怖がったが(笑)」

と言った。



怖かったかじゃないよ。大ババちゃん退かないし乗れなかったんだって。


「あ?ヒデコ(母)来たのか」


え、知らんかったの?


「ガガ(母)家さ居たからまだ○○部活終わんねのかと思ってや。ゆっくり迎えさ来たんだ」



あのクソババア何も言ってなかったのか。と割と本気でムカついた瞬間だった。まぁ私がもういいと言ったからなんだろうけど。私がもういい、と言ったのだから母ももうどうでも良かったのだろう。


反抗期も相俟って本当に本当に頭に来た。母は母で激しい反抗期の私に関わり酷い目に合いたくもなかったのだろう。


父の暖房が付いた温かい車に乗り込むとちょっと安心した。イノシシに出くわしたらどうしようかとちょっと思っていたから。


「大ババ何としても足痛いって言い出してヒデコに病院さ連れて行かせたんだと。午後から行くとあそこの医者や機嫌悪りがらナンダカンダ言われたんだどさ(笑)」


知らんわ。


ぶっきらぼうに答えると父は機嫌が良いのかニコニコ笑っていた。


多分、暗くなって怖い思いをして不機嫌になっているのだと思っていたのに違いない。


「んだ。そう言えばや、お父さん光るキノコば見つけたんだ。」


えぇ…なにそれ。


「光るキノコや。昨日佐藤さ居から帰って来たればなんか可怪しく光るなにがあるなぁど思ったらキノコ光ってたんだ」


夜光キノコなんて聞いたこと無いよ。


「お父さんもだ。もしかすっと月夜茸のちっちゃっこいのがも知れねな」


えぇ…光るキノコって…えぇ…



また不思議なナニか好きな父が余計な物を発見したのかとげんなりした。父はUFOとか流れ星とか幽霊とか不思議なモノが大好きだった。


車は家に到着しゆっくり車庫に駐車された。隣のちょっと曲がって停まっている母の車を見てまたまたイラッと来た。


そんな私を気にもせず父は車庫横の土手のえぐれた部分の奥を指さした。



言われるままに覗いてみた。
うん。キノコが光ってる。本当に光るキノコがあった。キノコ光ってた。正確には蓄光の腕輪みたいな蛍光色な光り方をしていた。えのき茸の先端1センチ位の小さな小さなキノコが3本生えている。


え。光るエノキじゃん。



なんだか理由のわからない物を見せられた私は冷静に父に言った。


エノキ光ってる。

「んだかがらやぁ。言ったべ?光るキノコだって」


得意げに父が言った。


「寒いからうっちゃ入っぺ」


光るキノコをもっと見たいと思ったけれど得体のしれないナニか過ぎてあんまり見てはいけないような、なんとも言えない奇妙な気持ちになった。




図鑑で調べてみるよ。

「んだな」


家に入ると母は夕飯の支度中で、茶の間では曾祖母さんがにニヤニヤしながらタバコをふかしていた。


「なんだぁ?歩って帰って来たのがぁ?」


まじクソババア。


そう一言吐き捨て部屋に戻り着替えながら生物図鑑を本棚の中から探した。

図鑑を片手に茶の間に戻ると曾祖母さんが嫌味をなんやかんや言うのを無視して光るキノコを調べた。そこに熱燗とイカの干物を持って父が戻って来た。


母は私については何も言わなかったらしい。




「わかったが?」

多分ねぇシイノトモシビタケだと思う。


「んん~?どれ」


イシノトモシビタケ


「んだな。こいつだな。格好から見っとこいつだな」


なんでこんな冬に山ん中の土手に生えたんだろ?

「そいつはわがんねなぁ」


父がキューっと熱燗を飲みながら光るキノコに付いて思いを馳せていた。


なんだか色々ありムカついたり悲しくなったりした日だったけど光るキノコを見てとても不思議な気持ちにもなった日だった。私の見えている世界は世界中のほんの少し本当にほんのちょっぴりなんだろうなと本気で思った。



私が光るキノコを見たのはその日が最後だった。それから今に至るまでまだ光るキノコには再び出会えて居ない。

真っ青な蝶々も背中の青い蜂も水色のカエルも瑠璃色の鳥も光るキノコも45年の人生で見たのはまだ1回きりだ。

この先まだまだ不思議なモノを一度限り見るのかも知れないけれど不思議なモノの話を一番面白がって聴いてくれる人がもう居ないのはちょっとだけ寂しい。


























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