
小説の一人称は役者? 三人称は監督?
小説を書く際に、一人称にするか三人称にするかで悩むことがあります。複数の視点で描くなら大抵は三人称に決まりますが、単視点なら一人称でも三人称でも成立します。
「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」は三人称です。主人公である椎也の視点でほとんど描かれているので一人称でも書けましたが、他の視点が混じるので三人称を選んだ覚えがあります。
また、ある仕掛けのためにも三人称の方が適当でした。
「夏のピルグリム」は一人称です。主人公である中学生の視点でずっと描かれますし、読者に主人公と共に冒険してほしかったので、迷いはなかったです。
一人称だからこその伏線もあるので、三人称で描こうとは思いませんでしたね。
他の作品では三人称の方が多いです。単視点でもできるだけ三人称で書けと解説書などにはよく書かれています。その通りだと思います。
それは、三人称の方が物語を俯瞰して書けるからです。特に書き慣れていない頃は、物語の構成を作りやすい三人称の方が良い気がします。もちろん、一人称で迫力ある文章を書く手法もありますが。
人称の選択は幾多の解説書があるようにとても難しいものですが、最近映画を観ていたら、一人称は役者で、三人称は監督なんじゃないかと思うようになりました。
一人称で書くとき、作者は主人公と同化します。主人公の視点でものを見て、主人公として思考します。それは映画や劇で役者が主人公を演じるのに似ているのではないでしょうか。
三人称は単視点でも複数視点でも、物語を上から眺めているように人物を動かします。それはひとりの役者ではなく、映画監督のような振る舞いな気がします。
映画には台本を書く脚本家がいますが、小説にとっての脚本とはプロットだと思います。脚本(プロット)に基づいて実際に舞台(風景描写)を描き、人物を動かします。それが小説の執筆じゃないですかね。
最終的にどのような描写で読者に提供するのか決めるのは監督(小説家)です。
今書いている小説はすべて三人称です。「夏のピルグリム」のような特殊な設定を除いて、今後も三人称を用いることが多いと思います。
多分、僕は物語を俯瞰して構成するのが好きなんだと思います。もしも自分が映画に関わることがあったら、役者ではなく監督をやりたいと思いますし。小説家の中には監督ではなく、自らプレイヤーとして演じたい人もいるのでしょう。そういう人は一人称形で演じるように書くのが良いのかもしれません。
自分が役者タイプか監督タイプか考えて人称を選ぶ方法もあるんじゃないですかね。
著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より発売中です。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら書店で手に取ってみてください。善い物語です!