小説の登場人物に名前をつけるルール
小説を書くと登場人物に名前をつける必要があります。
作家によっていろいろな命名方法をお持ちだと思いますが、僕は「読みやすい」ことを重点に置いています。
まずは、読者が読めないような漢字や読み方の名前は使わないようにしています。名前を読むたびに詰まってしまうようでは、物語に集中できませんから。
その物語で頻出する漢字も名前に使わないように心がけています。例えば植物に関連する小説なら「木下」や「花木」は使いません。地の文と同じ漢字が重複する可能性が高く、読みにくくなってしまうからです。
登場人物の名前の漢字が重複しないのはもちろんですが、音にも気を配ります。「有田」を使ったら、「浅井」は採用しません。「あ」が被っているからです。
読者が混合しないように細心の注意を払って命名します。忙しい合間を縫って、数日にわたって小説を読んでくれる人もいると思うので、たまに読んでも迷わないように登場人物の名前は特徴をつけるようにしています。
カタカナの名前を用いることもあります。ニックネームを採用する場合もありますし、初対面なら相手の名前の漢字がわからないのでカタカナで表記することもあります。漢字の名前ばかりだと混乱するので、カタカナ名を用います。ひらがなは助詞や地の文と混じるので、原則使いません。
必要がなければ、フルネームを書かないようにしていますし、一度しか登場しない人物には名前をつけないようにしています。これも余計な情報を伝えて読者を混乱させないためです。
7月刊行の「夏のピルグリム」の主人公は夏子で、友人からは「ナッツ」と呼ばれています。夏子だと地の文でも「夏」を使うことが多く重複するので、あだ名を使うことにしました。
友人のあだ名は「マチ」です。最初はナツとマチで似通っていたので、ナッツに変更しました。
それ以外の登場人物は、あまり使わない漢字の名前にしました。フルネームの表記で登場する人はひとりしかいませんし、そのひとりも名前でしか呼ばれません。
「パパ」「ママ」「おばあちゃん」「工場長」などの代名詞も使って、できるだけ固有の名前を使わないようにしました。
これらは、できるだけ読者に負担をかけずに、物語に没頭してしまうための工夫です。
ここまでする必要はないのかもしれませんが、少しでも多くの読者に楽しく読んでもらうためには、こうした配慮が必要だと思っています。
そうして完成した「夏のピリグリム」は7月18日刊行予定です。気になった方は、ぜひ予約してみてくださいませ。
著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より7月18日に刊行されます。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら予約してください。善い物語です!