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原稿を捨てて書き直す
推敲・改稿をしていると、どう修正しても、うまくいかないことがあります。助詞を変更したり、文章の順番を何度入れ替えても、しっくりきません。
そういうときは、思い切ってその文章を削除します。しっくりこないときは、その文章がなくても意味が通ることが多いです。凝った比喩とか、気に入った文章だと、もったいないからと残したくなりますが、思い切って消してしまうとスッキリすることがあります。
一文だけじゃなく、シーンも同様です。長い小説を書いていると、どうしても物語にそぐわずに浮いてしまうシーンが出てきます。苦労して書いたシーンだと残したくなりますが、一思いにバッサリと切ってしまうと、整合が取れ、物語の進行がスピーディーになることがあります。
今書いている小説にも、そういうシーンがありました。良いシーンだし、それなりにケレン味はあるのですが、物語の全体からすると冗長でした。
そのシーンを思い切って消してしまったら、物語のテンポが上がり、全体がスマートになりました。
一文やシーンだけじゃなく、小説全体でも同じようなことが言えます。書いてみたけど、どうにも納得いかないことがあります。何度も文章をいじっても、シーンを作り替えてもうまくいかない。作家にとって、作品は子供みたいなものなので、どうしても一度書いた文章に引きずられて、大幅に修正するのは難しいものです。
そういうときは、思い切って一から書き直すようにしています。書き上がった作品を捨てるのは断腸の思いがしますが、一度だけやったことがあります。
中盤ぐらいまで書いた作品を捨てて、冒頭から書き直しました。
最初の執筆の経験もあって、2回目に書いたものはより洗練された文章になった気がします。
次に進むシーンが明確にわかっているので、伏線もしっかりと張れて、シーンとシーンとの連携が強固になりました。
驚いたのは、もう一度書くのだから既知なはずなのに、書いていると新しいアイディアやシーンが次々に浮かんだことです。知っている道をリラックスして歩いていると、今まで見えていなかった風景に気づくような感じでしょうか。
明らかに、書き直した方がよくできていました。
うまくいかないときは、思い切って原稿を捨てて書き直すのもひとつの手段だと思います、惜しいけど。