小説に登場人物を増やすときは慎重に
小説を書いていて、「中盤の盛り上がりが欠けている」と感じることがあります。僕の場合、書きはじめるときに冒頭とラストはきっちり決まっていることが多く、一方で中盤の内容が薄くなってしまい悩むことがあります。
冒頭からラストまで一直線に進めればよいのですが、それではボリュームが足らず、テーマの深堀りができていない状態に陥りがちです。そう感じるときは、「この物語はもっと広がる」という予感も同時にしていることが多いです。
ストーリーラインは、ストレートではなくスパイラルに進むのがよいといわれます。主人公がさまざまな苦悩やチャレンジを乗り越えて成長する過程で、テーマが掘り下げられ、キャラクターの特徴が浮かび上がってくるのが理想とされています。
主人公が無双する物語も最近は増えていますが、向かうところ敵なしだと、少年コミックのように、敵やイベントがインフレしがちです。
スカスカの中盤を盛り上げるために、登場人物を増やしたくなります。新しい人物を登場させれば、主人公との出会い、新たな人物の描写、その後の展開を増やすことができます。
尖ったキャラクターが登場すれば、物語に緩急が生じます。
ただ、最初から想定していなかった新しい人物を登場させるには注意が必要です。新しい登場人物は、中盤を盛り上げるのに役立ちますが、それによって物語全体の流れを壊す恐れもあります。
最初から登場した人物なら違和感はないのですが、途中から新たな人物が登場すると、読者は「あれ? この人誰?」とまず思いますし、人物の紹介も新たに必要になります。読者からすると、物語を早く進めてほしいのに、新たな人物を理解し想像しなければならないのは、かなりのフラストレーションですし、物語の流れを遮ることになります。
ミステリーでは「真犯人は冒頭に登場させる」という掟があります。途中から出てきた人が犯人だと序盤での読者の推理が無駄になるからだと思います(もちろん、例外はあります)。
一般小説でも、新たな人物を途中から登場させるのには慎重であるべきだと思います。
読者に違和感を抱かせない一番の方法は、冒頭から登場させることです。書いている途中で思いついたキャラクターでも、冒頭を改稿して、最初から存在していたことにできます。一瞬でも序盤に登場させておけば、中盤から活躍しても読者はそれほど違和感なく受け止めてくれて、その人物が伏線のように機能します。
もうひとつの方法は、その人物の存在を最初から匂わせておくことです。
例えば、「私の父は酒乱で大変だった」というセリフがあれば、後から登場したときに読者は「ああ、あの酒呑みのお父さんか」とわかるわけです。
その人物が重要であればあるほど、その人物の存在を何度も伝えて、読者に「どんな人なんだろう?」と思わせるべきです。
どちらにせよ、中盤から新たな人物を登場させたいなら、最初から読者に存在を伝えることで違和感を減らすことができます。
冒頭の人物だけで物語が進めることができれば読者にもわかりやすい内容になりますが、それでは物語が単調になりすぎる場合は、熟慮の結果、新たな人物を設定しますが、その代わりに冒頭を改稿してその人物の存在を匂わせるようにしています。
ロードノベルのように、新たな出会いが物語の主題の場合はもちろん別ですが。
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