サインするたびにタイムスリップしたくなる
小説を出版するとき、サイン本やサイン色紙を書くことがあります。本に興味をもってもらうためならなんでもやりますが、残念なのは僕が字を書くのが苦手だということ。
そもそもどうして小説家はサインをする必要があるのでしょう。昔の作家は、直筆で原稿を書いていたから、文字に執着していたでしょうし、習字も今より馴染みが深かったと思います。
でも、現代の作家はPCで執筆するから、サイン以外に文字を書くことはないんですよね。
それでも、買っていただくお客様に感謝の意を表すためにはなんでもしたいので、できる限り上手にサインした本をお届けしたいです。
というわけで、出版前にはサインの練習を必ずするようにしています。
でも、なかなかしっくりこないんですよね、サイン。崩して書くほどうまくはないので、きっちり楷書で書くことしかできないんですけど、「環」がとっても難しい。王へんは小さくてバランスがとりづらいし、つくりは線が多く口が潰れてしまいがちです。
もしも、過去にタイムスリップできるなら、このペンネームを決めた中学生の自分に「環はよせ」と言いたくなります。
知っている人が多いと思いますが、サイン本って返本ができないので、書店様の買取りになります。だから、絶対に売れる必要があります。
書店様に迷惑をかけないように、どうしたら手に取ってもらえるか、どうしたらお客様に喜んでもらえるか、あれこれ考えました。
自分だったら、どういうサイン本が欲しいだろう。
その場で作家さんにサインをしてもらったとき、サインだけじゃなくて、なにかメッセージがあるとより嬉しかった覚えがあります。
でも、メッセージを残すには、ペンネームと別の文字を練習しないといけないし、その場でサインするなら、その人の顔を見てメッセージが思い浮かびそうだけど、サイン本だと誰が手にとるかわかりません。
サイン本を買ってプレゼントがあったら嬉しいので、なにか同封しようかなと考えたけど、本が膨らんじゃいそう。
色々考えた結果、ひとつだけ仕掛けを用意しました。その仕掛けは、サイン本を買った人のお楽しみにさせてください。
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