久しぶりに母と長い時間を過ごした
朝6時に電話がなり、母が転んで頭に怪我をして出血も多いので救急車を呼ぶという連絡を受けた。
大急ぎで病院に向かい付き添ってくれていた看護師さんと交代する。
頭に裂傷があって3針ほど縫う羽目になったものの、幸いCTでは異常なかった。そのまま外来の脳神経外科を受診するように言われ、全てが終わって母を施設に送り届けたのは11時半。病院に到着したのが7時頃だったので4時間超母と一緒にいたことになる。
最後に母の通院に付き添ったのは8月だった。それまでは、しょっちゅう父と母の通院に付き添って長い待ち時間を一緒に過ごしていた。家ではバタバタと動き回っているけれど、病院の待ち時間は他にやる事がない。本を読むにも、どうにも落ち着かないので父や母の取り留めのない問わず語りに付き合う事になる。父は昔の山行の話しをするのが常だった。母は愚痴や不平、人の悪口が多くて聞いているが辛かった。母の通院に付き合うのが嫌だった。
久しぶりに母の傍らで長い時間を過ごしたのだが、母の口から語られるのは全てが不規則発言だった。
外界のことはほとんど認知していない。視界に入った何かが引き金になって脳裏に浮かんだことを話しているようでもある。私には見えていない何かのことを話しているのかもしれない。言葉は、はっきりしている。全く脈絡のない話ばかりでもない。
医者の前では唐突に声を張って「そうですねえ。今日は妹が来れないので」と言い出した。最初のうち叔母が付き添う事が多かったからだろう。
幻の世界の問わず語りに「そうだね」「大丈夫、私がやっておくから」「心配しなくていいよ」と付き合うしかなかった。
帰りの車の中では乱雑に後部座席の足元に転がしてある毛布やスタック脱出シートやらが気になって屈んで手を伸ばして拾い上げて物も言わずにいじっていた。何を思ってのことか分からない。
幻の世界にいるけれど、まだ私が一緒にいて話していることは分かっているし、幻だけど会話もできている。あれほど苦痛だった通院だけど、たまにはこういう時間も良いかもしれないと思えるようになった。