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「広東風三杯鶏」

(G.E.M. 邓紫棋の「倒数」(Countdown)を聴きながら、どうぞ)

建國が碧瑤(ビーヤン)で学んだ事は、失恋の痛みだけではない。
台湾料理の幅の広さ、奥の深さ、広東料理で手一杯の建國にとって、それはさらなる飛躍への扉だった。

そしてもう一つ、彼にはある学びがあった。彼は副料理長会議の際、それを提案した。
皇宇は、無条件に賛成した。「その歴史的意義を鑑みれば、ある意味正解だ。」と言って文山も同意した。
彼らの会議が紛糾せずに終わったのはどれくらいぶりだろう。三人の意見が合致し、会議は大いに盛り上がる。
ただ、その提案を誰が麗華に話すか、だ。


文彦叔父の反対の可能性は高いが、麗華を籠絡すれば、それは無視できる。そこまでは一致している。
誰が麗華に話しをし、どう麗華を説得するか。
彼らのアイディアは千を超え、マンを数えるかに見えた。
そして、遂にその計画の全容がこの世界に降臨する。


「これでイケるな。」皇宇が他の二人を見る。
「あぁ、間違いない。」建國が遠いする。
「我々がミスをシなければ必ずうまく行くはずだ。」と文山が認めた。


決まれば話は早い。彼らはすぐに行動した。
麗華の外堀は静かにしかし確実に埋められていく。未だ、彼らは麗華に一言たりとその事について話してはいないが、麗華の回りにはファッション雑誌や、制服カタログなどが目に着くように置かれた。

ある日、皇宇が口火を切った。
「似合うと思うなぁ。」
皇宇はそれが彼女に似合う事を強調する。
それを繰り返す内、麗華は少しヅツではあるが、まんざらでもないという表情を見せるようになった。

文山はその歴史的意義を説いた。それは麗華との会話の中でさりげなく、他のエピソードに混ぜられた。
文山のステガノグラフィーは麗華の心をすこしづつ侵食していった。

建國の行動は大胆だった。他の二人が麗華の心を動かしてから、彼の行動は始まる。
彼は、グラビア写真や、ポスターなどを麗華の前でこれみよがしに眺めながら、「綺麗だなぁ。美しいなぁ。」と繰り返す。

そして、遂に最後のひと押しの日がやってくる。三人は、紙袋を持って麗華の前に立ちはだかった。

「何?兄達。」
「我々の提案を効いてほしい。」建國が口火を切った。
「この紙袋には気味にふさわしい衣装が入っている。これを今日から龍蝦広東饗宴の制服とする事に決めた。」皇宇が言う。
「誰が決めたのよ。」
「我々だ、副料理長会議で決定された。この決定は覆されない。」


麗華は中身を見て言う。「こんなの無理に決まってるわ」しかし、顔はまんざらでも泣い様子だ。
(後、ひと押しと皇宇が文山の背を突く)

文山はその衣装の文化的意義を改めて説いた。既にステガノグラフィーによって洗脳されている身である。麗華に否という解答は無かった。

「わかったわ。着てみるけど・・・」

「では、早速」と三人は女性用控室に彼女を押し込んだ。

「どうだい?」皇宇が言う。
「ピッタリよ。まるで測ったみたい。どうして私のサイズを兄達は知ってるの?」
「観察眼は料理人の必要スキルだから。」と文山が言う。
「早く、早く、見せてくれよ。」と建國。

そして遂にその瞬間が現れる。控室の扉がゆっくりと開く。そして三人は息を飲んだ。


そこには、麗華のチャイナドレス姿があった。
「まさに楊貴妃だ。この時代に生まれてそれが見られるとは!」三人が口を揃えて言った。
「そ、そう?」照れながらも少し大胆にポーズを決める麗華。

「惚ほ、れた。結婚してください。」建國の変わり身には驚かされる。
高宇はスマホでパチリと撮影。
文山は「言葉を失うとはこの事か。」と感心しきり。

それからわずか数分後、料理場の静けさは破られた。ドアが勢いよく開き、最後の牙城、文彦が現れた。


「何をやっているんだ、お前たち!」彼の声は蒸気が立ち上るキッチンを揺るがし、三人は驚きの表情を浮かべた。麗華もまた、自身の新しい衣装を見つめる文彦の目を捉え、驚愕の表情を見せた。

「ここがどこだと思っているんだ?この料理場は遊び場じゃない!」文彦の声は怒りに満ちていた。

麗華は一瞬言葉を失った後、自分の新しい衣装を見つめ直し、そして文彦に向かって言った。「でも、この服は…」

「私はその理由を知りたくない。そして、お前たちも私の意見を尊重するべきだ。これ以上、このような行動が見られたら、料理人としての道を考え直すべきだと私は思う。」

文彦の言葉に、三人は言葉を失った。皇宇はスマホをしまい、建國は頭を下げ、文山はただ静かに見つめていた。

「それにしても、麗華。この服はお前には似合わない。その事を忘れるな。」文彦は最後にそう言い残し、厳しい眼差しを麗華に向けた後、料理場から去って行った。

三人はただ呆然とその場に立ち尽くし、何も言うことができなかった。麗華もまた、その場で静かに立ち続け、チャイナドレスの裾を指でつまんでいた。

「私、ちょっと…」彼女はそう言うと、制服を持って控室に戻った。ドアが閉まると、その音だけが響き渡った。その日から、料理場の雰囲気は一変し、チャイナドレスの話は二度と持ち上がることはなかった。

【材料】(4人分)

鶏もも肉:800g
ニンニク:8片
生姜:一片
青ねぎ:2本
唐辛子:2本
ゴマ油:大さじ1
広東魔法ソース:大さじ4
水:カップ1
バジル(お好みで):適量
【作り方】

鶏もも肉は一口大に切り、ニンニクと生姜はみじん切りにします。青ねぎと唐辛子は斜め切りにします。
フライパンにゴマ油を熱し、ニンニクと生姜を炒めます。
香りが出てきたら鶏もも肉を加え、全体が白くなるまで炒めます。
広東魔法ソースを加え、全体がよく絡まるように混ぜます。
水を加えてからフタをし、弱火で15分程度煮込みます。
唐辛子と青ねぎを加え、さらに5分程度煮込みます。
仕上げにバジルを散らすと、香りが一層引き立ちます。