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顔はカンバスではありません!|マラス 暴力に支配される少年たち|Review

『マラス ―—暴力に支配される少年たち』
工藤律子著、集英社、2016年
レビュー2018.12.06/書籍★★★★☆

以前、中米諸国からアメリカ合衆国に向かう不法移民のキャラバンが話題になりましたね。『闇の列車、光の旅』なんて映画も制作されました。中間選挙もあってトランプは移民排斥の強硬姿勢を崩しませんでしたが、なぜ彼・彼女らはアメリカに向かうのか、日本にいるとよくわからないですよね。

その答え(のひとつ)が「マラス」なのです。

マラス――"r”と“l”の区別がつかない私はずっとmalas(悪)と思ってましたが、marabuntaという単語が語源で、意味は「群れ」や「人食い蟻」ともいわれるそうです。2大勢力がバリオ18 Bario Dieciocho とマラ・サルバトルチャ Mara Salvatrucha らしい。日本でいう半グレに輪をかけたようなヤバい暴力集団で、殺人なんて屁でもない!の奴らです。ホンジュラスでは1990年代から増え始め、2000年代以降は敵対グループの抗争や軍警察の行き過ぎた弾圧もあって、世界で最も殺人が多発する国になってしまいました。

 マラス問題が悪化する原因は大きく二つ。一つは、若者が苦境を抜け出せるモデルケースが、マラスしかないこと。極貧状態に加え、親が問題を抱えていることが多く、食と人との関わりに飢えた少年は、マラスの誘惑に抗しきれない。本心ではまっとうな教育と仕事に就きたいのだが、その選択肢はなく、自分をまともな存在として認めてくれるのはマラスだけなのだ。
 二つめは、悪は根絶やしにせよ、という政府の方針。貧困対策をするのではなく、反マラス法を制定、怪しきは片っ端から捕まえ、時には殺してしまう。この殲滅(せんめつ)作戦が、マラスをさらに凶暴化させ、予備軍を生む温床を広げている。地元では、マラス以上に警察が恐れられている。

評者: 星野智幸 / 朝⽇新聞(2017年01月15日)より

都市のスラムを根城にしていて、一度入ると抜けられない鉄の掟があります。だから「誘われたけど断った」「カネを払わなかった」「彼女になるのを拒否した」などの理由で、簡単に命を狙われます。この暴力から抜け出したいというのが、アメリカをめざす若者たちのキャラバンの純粋な動機なのです。

この本は、人を殺すことができずに国外に逃げて生活している人、刑務所収監を経て聖職者になった人、犯罪予防(人材育成)のためにマラスから逃げる人を支援しているNGO職員、元ギャングでそうしたNGOで更正している人などの話をルポしています。敵対するグループのなわばりに学校があると殺されるから通えなくなってしまって、勉強することができないから人生の選択肢が減って、ギャング生活から抜け出せないという循環らしいです。

コワいですね。道に迷っただけで殺されてしまうかもしれない社会、こんなところに住みたくないですよね。彼・彼女たちは見方によっては「難民」だけど、そういう見方をすると堰が決壊すると考えてしまう「来られる側」の人もいる。

マラスはもともとカリフォルニア州なんかで素行不良で追い返された不法移民が母体で、凶悪化したのも本国(アメリカ)のマラス上層部が掟を厳格化したのが理由のひとつだとか。因果応報というかなんていうか、軽々しくコメントできない関係ですね。

ところで、アメリカってほんとに尊敬できる国なんですかね。アメリカの良心ってあるとは思いますが、貧富の差と社会的分断にどんどん切りすぼめられて、まったく目立たなくなってるような気がします。がんばれ USA!

(過去サイトから転居してきた文章をベースに書いてます。)

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