2016コロンビアの旅#1|釣り旅に慣らし運転は必要でしょ、な話|Travelogue
まずコロンビアにいる二人の友人を紹介しよう。
一人目は小関くん(仮名)、日本人だ。コロンビアでエメラルドの買付けをやっている。永住しているのではなく、3ヶ月ペースで10日ほど首都ボゴタに滞在するのだが、そのタイミングに合わせて訪ねていったというわけなのだ。
二人目はカミーロくん(仮名ということで)、建築家だ。なぜコロンビアの建築設計士と知己を得たかというと、彼が数年前、△△大学の建築科に留学していて、うちの会社にインターンに来たからなのだ。家族全員が建築家で、実はけっこうお坊ちゃまみたいだ。
2016年にこの地を旅したのは、彼らと一緒に釣りができたらいいね、と思ったからだった。
小関くんにボゴタの空港に迎えに来てもらったのは深夜手前頃だった。買付け仲間が契約しているというマンションの一室を与えられ、就寝。朝起きたら、旧市街地にある買付けの事務所についていき、彼の仲間のエスメラルデーロたちに会う。マフィアの悪党って先入観の人も多いと思うけど、全然そんなことはない。裏ではスネにキズありな人もいるようだが、少なくとも見た目はいたってふつうだったよ。
エメラルドを売りに来てるほうはといえば、老いも若きもいて、女性もちらほらいて、リッチマンもプアマンもいて、つまりいろんな人がいた。
そんなこんなで週末に、エスメラルデーロ御一行様と釣りに行くことになる。場所はグーグルマップであげた候補地からHondaってところになった。ホンダじゃなくてオンダだよ。
ああ、もう最初に書いておくと釣れなかったよ。連日の雨でマグダレナ川は増水していたし、そもそもルアー釣りに適したポイントもなかったし・・・ 事前にyou tubeでアンデス山麓の渓相をチェックしていたのだけど、そんな釣りができそうな川では全然なかったのだよ。同行者のホセとティト(仮名)は釣りではなく遠足気分だから、こちらのわがままであちこちポイント探しすることははばかられたんだ。
それでも近くの小さな湖でみんなでボートに乗ってエサ釣りもやってみた。その帰りの小川でも竿を出した気がする。記憶が曖昧だ。ひったくりをおそれて、写真をあまり撮らなかったせいもある。でも地味に楽しかったな。断片的なシーンは、こじんまりとしたホテルのプールやうるさかった朝のオウム、雨に濡れたわりとレトロな街並み、ヘヘンに刺されまくって汚くアザになった足、道端のレストランでリモナーダ飲んでお腹こわしたこと、ビリヤードしたけどみんな下手くそで長続きしなかったことなどなど。
こんな脈絡から切り離された淡い記憶の画像たちは、いつか他の似たような記憶と混ざりあってクラウド保存され、思い出せそうで思い出せないもどかしさというバグを発生させるのでしょうね。
ところ変わってこちらはポパヤン。かわいい響きだけど、れっきとした街の名前だ。コロンビア南西部にあり、ボゴタから陸路では遠いので飛行機で移動した。
ポパヤン空港に降り立つと、迎えに来てくれたカミーロと挨拶のハグをして、彼の職場へバモノスVamonos! 職場やら現場やらを見学して彼の家へ。コロンビアの極太肉厚の竹を資材にした建築で、広いヤードにプールもある立派な邸宅。半地下のような1階にゲストルームがあって、そこを使わせてもらった。市内観光や彼のガールフレンドの話は省こう。
何日目だったか忘れたが、今日は釣りに行く日。カミーロの友人のお父さんが釣り好きで、彼の見立てで鱒を狙ってみようということになった。あいにくの雨模様で、標高の高いポパヤン周辺は霧がところどころ立ち込めている。日本の晩秋のような寂しげな風景のなか、かなり車を走らせて、さらにダート路も行きつ戻りつしながら目的地に着く。
雨は弱いが、よどみなく降り続いている。渓流ではなく、牧草地を流れる小川で、贔屓目にも鱒がうじゃうじゃいるようには見えない。日本から持ってきたスピニングロッドにボゴタで買ったスピナーをつけてキャストする。
それにしても、と思う。こんな地球の裏側で、南米というイメージとはまったく違う釣りをして、それで釣れるならいいけどほとんど釣れずに、いったいなにが楽しいの?
・・・楽しいとまでは言えない。でも気分はいい。これは唯一無二の経験だ。このなんでもない川を攻めた日本人はいないはずだ。さっきまで見ず知らずの人と雨のなかを川岸に沿って歩いている。釣れそうな場所を探して歩いている。釣らせてあげたいという気持ちがうれしい。
けっこう寒かった。釣果も貧弱だ。でもコロンビアにも「寥々とした」っていう言葉が似合う場所や時間があることを知ることができた。ポパヤンの第一印象はグルーポ・ニーチェの「Mi Pueblo Natal」だったけど、この日の脳内ミュージックはストーンズの「Moonlight Mile」に変わっていた。
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