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初老と海、あるいは人はなぜ海で死ぬのか|Report

He was an old man who fished alone in a skiff in the Gulf Stream and he had gone eighty-four days now without taking a fish.
彼は老いた男だった。メキシコ湾流に一人舟を浮かべて漁をしていたが、何も釣れないまま84日が過ぎていた。

Ernest M Hemingway『The Old Man and the Sea』の冒頭

ヘミングウェイの小説『老人と海』の老漁師サンティアゴには少年の教え子がいたが、オレにはいない。
サンティアゴほど年はとっていない初老のオレだが、サンティアゴ以上に孤独に海に出る(SUPで、だけど)。
こわい。不安だ。でも海に出る(SUPで、だけど)。

海での水難事故が多い。とても気になる。
沖縄県での水難事故のトップはシュノーケリング中の事故だという。
オレはシュノーケルも大好きだ。シュノーケリング歴は小学3年生か4年生の頃からだ。

なぜシュノーケリング中に溺れてしまうのだろう?
・・・そう考えるのは、オレも昔ほど無理がきかなくなったからだ。
昔ほど息が続かなくなった・・・ 昔ほど長い時間泳いでいられなくなった・・・

ニュース記事にあがるシュノーケリング事故は50~60代が多いような印象を受けてしまう。体力の低下に意識が追いついていないのか。それとも加齢によるバイアスがそういう見方をさせているのか。

経験者でも溺れてしまうシュノーケリング事故の原因をオレなりに考えてみる。


①波の条件の変化

波は一定ではなく、リズムがある。高い波やうねりのタイミングでシュノーケルから水が入ることはあるだろう。晴れていても風が強ければ、波と波がぶつかった三角波が起こる確率も上がる。

突然の浸水やその水が気道に入ることでパニック状態になることが想像できる。

②離岸流

離岸流とは海岸から沖へ向かって強い流れが生じる現象のことだ。オレもこれに出会ったことが何度かあるが、離岸流に逆らって泳ぐと体力が奪われてクタクタになる。

かといって「流れとは直角に泳ぐ」という正しい対処をする冷静さも、この状況では失われがちだと思う。

③海の生物との遭遇

ハマサンゴなどがあるイノー(リーフ内)にはホンソメワケベラという魚がいる。他の魚の体表についた寄生虫を食べる掃除魚だ。これに擬態したニセクロスジギンポはあくどくて、皮膚や鱗ごと食べてしまう。イノーに多いムラサメモンガラは、繁殖期にはナワバリを守る習性が強化されて、見境なくダイバーを襲うようになる。

シュノーケリング中にこうした魚たちからつつかれたり攻撃されると、驚いて水を飲んでしまうことはあるんじゃないだろうか。

④マスクやシュノーケルの不具合

シュノーケリングに必要なグッズはゴムやシリコンゴムなどで結合される。当然これらは経年劣化する。マスクを締めたりフィンを固定したりする部分はとくに切れやすい。

前のシーズン大丈夫だったからといってメンテもせずに使うと、使用中にトラブルが生じてしまうかもしれない。

⑤飲酒

沖縄の夏の海はビーチパーリーの舞台でもある。ほぼ例外なくバーベキューで盛り上がっている。そうなると人は酒を飲む。

アルコールを摂取した状態で海に入ると、思った以上に判断力や身体能力が低下し、事故を招く可能性が高まる。二日酔いでもこれが起こるそうだから気をつけよう。

⑥予期せぬ体調の悪化

先日宮古島で発生したカヤックツアー中の事故は、事故ではなく病死だと帰結された。事故が起きたときの状況ばかりに縛られてはいけないという教訓だ。とすると、泳いでいるときに突然持病が悪化するケースも想定しなければならない。

軽視されがちなのが「足がつる」だ。水分不足や疲労などが原因だが、加齢も無視できない。オレだって最近よく起こる。年をとり運動不足になると、筋肉量が減少し血行も悪くなるからなんだそうだ。

水難死亡事故の原因解明では、「足がつって溺れた」までたどりつくことは少ないだろうが、実はけっこう起こっていると推理する。

⑦旅行心理

これは観光客限定の外部要因だが、「せっかく沖縄に来たんだし、ちょっと海が荒れてるみたいだけど、泳ごうよ。もったいないじゃん」的な心理になることがあると推測する。逆の立場なら、オレもそうだし・・・

でも、荒れた海で溺れて死んでしまうリスクを考える想像力を持とう(と自分にも言い聞かせる)。沖縄には、海以外にも見どころはたくさんあるから気持ちを切り替えよう。

* * *

こうしたオレ流事故防止の心構えをたずさえて、初老に負けず、明日もオレは海に出る(しつこいようだがSUPで、だけど)。


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