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モッコクの木の家の温もりが百年続きますように|Field-note

2007年の伊是名島の古民家調査の成果を、差し込み写真もなしにほぼそのままコピペする。小細工なしで。オレは男だーーっ!


①屋敷の選定(分家の場合)

まず最初に、家を建てる場所を選ぶ必要がある。昔はハカジェーク(墓大工)などがフンシ(風水)をみることができたので、相談して敷地を選んでもらった。家主の生まれ年なども考慮されていたようであり、『伊是名村史』(以下では「村史」)によると家主の当たり年に着工するのが常で、クンジン(金神)という厄年に建築することは避けられたという。

戦後は➀~⑥の儀礼の日取りは、大工の棟梁が行うようになった。

②テンダティ(手斧立て)

家を建てる工程の前に起工式(地鎮祭)を行う。このことをテンダティまたはヂマチリ(地祭り)という。今回の調査では儀礼内容を詳しくおぼえている人はいなかったが、酒、米などを供物として、屋敷の中央で大工と家主が工事の安全を祈願するものらしい。砂山をつくりそこにクワを三回入れる。ユタなどが屋敷を清める儀式を行うと記憶している方もいた。

祈願のあとは、親戚・縁者、近所の人を招いて、豚肉、魚、豆腐、昆布、天ぷらなどをふるまってお祝いする。

「村史」によると、祭場には大工道具、木材、筆、墨、白紙、酒肴を供えるとあり、棟梁と家主がその木材を、手斧(ノミでもよい)と金槌でそれぞれ三回叩いて、参集者に祝酒と肴をふるまうと報告されている。

③ハシラダティヌウガン(柱立てのお願)

柱立ては家屋の中柱、床柱(トクバーヤ)を立てる儀礼であり、敷地の地ならし・地固めやイシジ(礎石)の配置など基盤工事が終わった後に行う。イシジに使う石はチヂン山等からとってくるそうである。

儀礼は簡素で、立てる前の柱を横にして置き、その前で棟梁と家主が祈願する。テンダティのときに祝宴をあげているので、柱立てのときには特に祝事はないという話であった。

④ニアゲ(棟上げ)

棟上げの祝いは方言ではニアゲといい、棟木など屋根全体の桁組みが終わった段階で、棟梁が吉日を選んで行う。後述するヤーマーイが家主の祝いであるのに対して、このニアゲは大工の祝いと認識されている。時刻は夕方から夜にかけてだという。

床柱に対して木槌でやはり三回叩くという儀式を行う。棟木に「紫微鑾駕」と墨書きし、屋根にも同じ文字を記した旗を立てる。これは全県的に広くみられるが、火事などの災いを取り除く意味が込められ、元々は中国の道教起源の風習である*。

このときの供物は、塩、米、味噌を紙などでそれぞれ包んで結び、棟木につりさげた。「村史」では中央に米、向かって右が塩、左が味噌とある。

*北極星を神格化した北極紫微大帝に家を守ってもらう意味で、沖縄では1736年の「四本堂家礼」にみえるのが最初である(『沖縄大百科事典』より)。

⑤ヤーマーイ(家回り)

ヤーマーイは屋根が葺き終わった後に行われるもので、家主が中心になって行う儀式だと認識されている(ヤーフチ(家普請)ユウェーともいう?)。「村史」によると、家から災禍を払い福徳を招き入れるために行う。

儀礼に登場するのは男2名・女3~4名である。男2名は家主と棟梁、または親戚内の男子だとされ、一人が屋敷の内側から、一人が外側から屋敷を反時計回りに三度回る。このとき屋敷の四隅で以下の言葉を掛け合い(これは簡易バージョンとのこと)、呪術的行為を行う。

男(内):エーイ
男(外):エーイ
男(内):ヤーチヌシンバーヤー、ヤーチヌシンバーヤー、ウドイタナゲー、アシビタナゲー、ウニヤンジティモーレー、フクヤイッチモーレー
男(外):同上(意訳:屋敷の隅の柱よ、踊りや遊び(余興)お見せしますので、どうか鬼を近づけず、福を招き入れて下さい)
男(内):(粥を口に含んで)プッと四隅に吹きかける
男(外):(粥を口に含んで)プッと四隅に吹きかける

本調査では、異説として声掛けは内側からではなく外側から、また粥ではなく酒でという意見があった。ともにバサージン(糸芭蕉の着物)を着て、裾をまくった状態でこの儀式を行うとされる。

女はカミンチュ(ノロやニガミではない)とその“お供”とされ、お供は誰でもよく、普通は親戚から中高齢の方を選ぶということである。カミンチュは締太鼓(パーランクー)を持ち、お供は桑の枝やススキをサンに結んだものを右手に持ち、それを左手に打ちつけながら、男と同じように三度回る(先頭が桑の葉で払い、その後ろをパーランクーと説明する話者もいた)。桑の葉もススキも魔除けの意味がある。

なお、調査で確認できなかったが、屋根を葺く際には細かな祈願・祝宴がある。これは屋根葺きが集落共同で行うウー(ユイ)の作業であるからだと推察される。「村史」から要旨を抜き出す。

1ススジキユウェー(裾付け祝い)

屋根の裾のほうの四方を葺き終わった段階で休憩して、簡単な酒・肴がふるまわれる。

2ナーカヌユウェー(中の祝い)

屋根を三分の二ほど葺き終わった段階で休憩し、昼食を兼ねて赤飯と肴が供される。カヤ葺きの頃はヤーナーカヌウケー(屋中のお粥)が出され、瓦屋根の場合、カシチ(もち米と小豆の強飯)だった。

3イリチャヌウヌゲー(甍のお願)

屋根を葺いた人から代表が出て屋根に上り、東に向かって屋根葺きの終了を感謝する。供物は、ミファナウグシー(御花御供水)、肴、ヒジュルウコー(火をつけない平御香)である。

4禁忌事項

家族に妊婦がいるときは、出産が終わるまで屋根の一部をふさがないでおく(カヤ葺きでは棟を覆うアムンをかけない、瓦葺きでは中央の男瓦を一枚外すなど)。これは屋根を全部葺くことが胎道をふさぐことと連想され、難産するという言い伝えによる。

⑥スビユウェー(落成祝い)

住居が完成し、引越しが終わった後で、やはり吉日の日取りを決め、新居のお披露目を兼ねた落成式を行う。これは祝宴であり、儀礼的な意味は弱い。集落中に呼びかけ、親戚・知人、工事関係者なども招かれる。


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