にっぽんの夏、火葬の夏|Essay
この季節になると、母親を見送った地元の火葬場での光景を思い出す。あれは明暗の対比あざやかな蒸し暑い日だった…
夏は火葬場にとっては閑散期なのだそう。それはもちろん死亡者が夏場には多くないのが理由。というより、冬は急激な温度変化による疾患(心筋梗塞や不整脈、脳梗塞・脳出血等)やインフルエンザ、寒さ故の運動不足による基礎代謝の低下、はては餅詰まらせ事故など、死因が一人勝ち状態だから、その煽りを食っているというわけだ。うちの父親も長いものに巻かれて冬に逝ってしまった。
ところで、紳士淑女のみなさんは火葬場にどういう印象をお持ちなのか? 静寂や厳粛、別れ、寂しさ、思い出、畏れ etc.そんなイメージワードだろうか?
実は今、全国の火葬場は危機に瀕している。
…というのは少し大げさだが、問題が山積みなのだ。個人レベルでは自分が死ぬときを含めて滅多に利用しない施設。しかし公衆衛生上、不可欠の施設でもあり、やんごとなき事態が迫っていると言ってよい。
問題を仕分けして説明する。
火葬場が直面する課題
①施設の老朽化
全国の多くの火葬場は老朽化が進んでいる。1970~80年代に建設された施設が多く、これらの設備の更新や大規模な修繕が必要な状況である。老朽化すると、火葬炉の性能低下や安全性の問題が発生しやすくなる。
②超高齢化に伴う需要の増加
65歳以上の人口が全人口の3割近くを占める我が国では、火葬場の需要も急増している。特に都市部では火葬場の稼働率が高く、予約が取りにくい状況が続いているそうだ。そして、死亡率はこれからもしばらく上昇し続ける。
③人口減少に伴う稼働率低下
一方、地方では人口減少が進んでおり、一部の火葬場は稼働率が低下している。このため火葬場の統廃合を含めて、より効率的な配置への見直しが求められている。でも、人間というのはこういう施設が近所にくることを好まない生き物だ。
④利用者のニーズの変化
直葬(火葬のみで告別式を行わない葬儀)やペットの火葬を希望する人が増えるなど、火葬に関連する需要も多様化している。1回の火葬で約250kgのCO2を排出していることにも対応しなければならない。火葬場は従来の機能に加え、様々な利用者のニーズに応えるための柔軟性が求められている。
今後の火葬サービスの展望
自分の体験に舞い戻ると、火葬場の待合機能というものは改善の余地ありだと思う。
というのも、火葬の参列者には退屈しがちな子どもや膝が痛い高齢者がいるし、久しぶりに顔を合わせる会話が途切れがちな親戚もいる。厳粛や畏れのような従来イメージを振り払うようなアメニティ機能も必要なんじゃないかな、と。うちの場合は、天寿をまっとうできた死に様なので多分にそう思うのだが、生きている参列者にも寄り添った機能がほしい。
新たなサービス機能として、マルチエイジ用のくつろぎエリアを設けてはどうか。子ども向けには小さなプレイエリアで絵本やおもちゃを用意する、高齢者向けにはリラックスチェアやアロマディフューザーを設置するなど。すでにやってる施設もあるだろうが、待ち時間の退屈を和らげることができそうだ。
親戚同士の会話を促進するには、円形テーブルを配置し、インタラクティブなデジタルフォトフレームで、家族の写真やビデオメッセージをスライドショー形式で表示する。VR技術を駆使して、故人の生前の思い出の場所や家族の大切な場所をバーチャルツアーで巡る、なんてことも今後は現実化するかも。故人への思いを共有し、参列者の一体感を高めることができるだろう。
もしかして知らなかった過去の出来事をめぐって骨肉の争いが生まれたとしても「知らぬが仏」ということで…
喪服ですごす夏の火葬場は暑い。夏の利用者が少ないから冷房設備をつけていない古い火葬場もあるのが、それに拍車をかけている。
地球温暖化がもたらした、これも火葬場の課題のひとつじゃないかなと思う。