シャリバンもデンジマンもゲッターロボもえん魔くんも、みんな空手の子|Report
ウルトラマンの生みの親である盟友 金城哲夫に誘われ、1964年『ウルトラQ』でテレビライターとしてデビューした上原正三。「ウチナーンチュを標榜してヤマトゥ(本土)で生きる、が僕のテーマ」と語っており、子ども向け番組であえて戦争や差別、公害などの社会問題を描いたため、反骨の人と受け止められている。だがそれは彼の一側面であって、おおかたの作品は良質なホームドラマやハートフルコメディである。
今回は、上原正三の作品に垣間見える手(沖縄空手)の片鱗を拾い上げる。
『紅い稲妻』は、1970年にフジテレビ系列で放送されたテレビドラマである。放送時間は土曜19時の30分番組で、この時代にしては全13話で終了しているので人気がなかったということだろう。私は見たことがない。原作と脚本に上原正三の名がクレジットされている。
ストーリーは「スポ根もの」の影響が強く、主演の沖わか子は國學院大學空手部に通って型をおぼえたらしい。役名は松村奈美。「松村宗棍」になぞらえたと推察する。奈美に空手の手ほどきをする祖父の名は賢才。これは「摩文仁賢和」からだろうか。
父を探すために密航して上京する奈美の行く手を阻む悪の空手家組織が出現。奈美は必殺技「くれない三段蹴り」を駆使し、先に潜伏していた兄とともに組織との激闘を繰り広げるというストーリーだ。
オープニングとエンディングの曲を上原正三が作詞している。これも私は聞いたことがない。
オープニング曲 紅い稲妻(あかいいなずま)
作詞:上原正三 作曲:大塩潤(渡辺岳夫 ※1) 歌:堀江美都子
渡辺岳夫が別名義を使っているのは、裏番組だった『巨人の星』も渡辺が担当していたことによる大人の事情らしい。一瞬「あの世界のナベサダがっ!」って誤認したけど、ナベタケのほうも相当な巨匠で、アニメや時代劇の劇伴を数多く手がけている。
エンディング曲 紅い三段げり(くれないさんだんげり)
作詞・作曲・歌:同上
空手のスポ根ドラマなので、それらしい歌詞というか、主題歌のほうは『アタックNo.1』のもろパクリみたいになっている(『上原正三シナリオ選集』では別の歌詞が掲載されているので差し替えかも)。沖縄空手の要素を盛り込む余裕も余白もなかった感じだ。三段蹴りは沖縄空手の型にはなく、インスピレーションの産物だろう。
『ロボット刑事』(1973年)は石ノ森章太郎原作の特撮アクションドラマで、警視庁特別科学捜査室に配属されたロボット刑事Kの活躍が描かれる。フジテレビ系列で木曜19時から全26話が放送された。
「水爆飛行船、東京へ!」という回がある。カラテマンという悪役が登場する。マッハチョップという技がある。Kは一度は倒される。旋風五段蹴りという技もある。これは不発に終わる。そんなお決まりの戦闘シーンが繰り返される。
上原正三は沖縄を舞台としたこの回でも、沖縄出身であることを気負うことなく、淡々とシナリオライティングの仕事をこなしている。空手はあくまで沖縄らしさを演出するアイテムで、その真髄は換骨奪胎されている。
それは『柔道一直線』における「ジャンボ投げ」や『北斗の拳』における「烈火逆流拳」などの技名と近しい抽象化で(どちらも上原シナリオ回から)、正直、他県出身の人でも書けるレベルの空手理解だと思う。上原正三にとって空手は自らの体験に根づいていない沖縄文化なのだろう。けれど、それが等身大のウチナーンチュの空手理解だともいえる。