2012カンクンの旅#1|キンタナロー州の島と湿地でランデブーな話|Travelogue
メキシコのユカタン半島を旅したのは2012年のゴールデンウィーク。もう10年以上前の出来事になってしまった。月日は百代の過客だ。がんばって思い出してみよう。老化に抗え、オレの脳機能よ。
メキシコは乗り継ぎを除けば3度目の訪問だったが、ユカタン半島は初。中心都市のカンクンが高級リゾートのイメージが強かったので、ローコスト旅人のオレはずっと敬遠していたんだ。しかし、沖縄のリゾートホテルとの比較もしてみたかったし、グーグルマップの航空写真には魅力的な釣り場が広がっていたしで、ついに渡航を決意。アメリカのどこを経由したか忘れたが、カンクン国際空港に降り立ったのが4月28日朝だった。
初日と2日目は釣りの情報を集めるために日本人宿に泊まった。わりと若い旅行者が多くて、すでにコミュニティが築かれていたのでなじめず、また情報も得られなかった。宿の近くの路上のタコス屋がうま懐かしかったこと、野鳥が縦横無尽にさえずっていて鳴き声で目が覚めたことが記憶に残る。てゆうか、オレが暮らす那覇はこの緯度にありながら、鳥の声が異様に聞こえてこない音的にさみしい都市だと思う。
都市の前面に長さ25kmに及ぶ砂州が南北に広がるという特殊な地形が、カンクンをカリブ海を代表するリゾート王国にした。その砂州の内海でルアーを投げ、小さなバラクーダを数尾キャッチすることができた。だが、これはまだ序の口だ。これからオレは、キンタナロー州の北部にあるオルボクス島 Isla Holboxへと向かうのだ。
カンクンからまず西へと走り、やがて右折し北上したバスが着いたのは、対岸のチキラ Chiquiláという小さな町。ここでオレは待ちきれず、釣りガイドの交渉をはじめてしまった。宿の人に紹介してもらったアルバロ(仮称)と翌日港で合流し、オルボクス島近くの湿地のような浅瀬へと向かう。夜明け前の柔らかな空気のなか、ボートの気持ちよい疾走に身を委ねる。
彼がオレに釣らせてやると約束したのはターポンだ。カライワシ目イセゴイ科に属する魚で、沖縄にいるのは小型のパシフィックターポン。こちらはアトランティックターポンだが、コスタリカ沖の2㍍オーバーにもなる化け物サイズではなく、中型がオンターゲット。アルバロがサイトでターポンを見つけ、オレが彼の指示する方向へと竿を振る。・・・かかった! だけどそれはアルバロの竿に、だ。
解説しよう。ターポンは図体のわりに警戒心が強い。ルアーの着水音にも驚いて逃げ出すほどだ。なのでゲームフィッシュではあるんだけど、明らかにフライフィッシングに分がある。そしてアルバロは実はフライのガイドだったのだ! そのうえガイドになって日が浅く、ルアーフィッシャーマンにターポンを釣らせてあげるほどの技量がなかった(自分の腕のなさは誰にも見つからないように棚上げにしておこうぜ)。ゴマフエダイに似たフエダイ系の魚がポツポツと釣れたので大目にみてあげて、握手をして別れた。
翌日はオルボクス島に渡る。島にはターポンガイドツアーの看板があちこちにあるが、いいもん、一人で釣るもん。レンタサイクルで島をランガンする。西側にはオカッパリで釣れそうな場所がいくつもあったが釣れなかった。
2日目の早朝に人のいないビーチを攻めているとき、遠くでナブラが立った。エイがいませんようにと祈りながら立ち込みすると、バージャックと総称されるアジ科の魚が連発した。サイズはそうでもないが、引きが強くてなかなか楽しい。この魚はこの旅で何度もオレを癒やしてくれるいいやつだった。
ユカタン州のリオラガルトス Río Lagartosという漁師町にも行ってみた。ここではスヌークが狙えるらしい。漁から戻ってきた船に乗せてもらい、2時間だけと交渉して水路を流してもらう。おかげさまでスヌークは釣れたが、1尾だけだった。
夕方に街をブラブラしていると、広場でなにやらイベントが始まろうとしていた。別に珍しいことではないのでそのまま通り過ぎたのだが、大音量で聞こえてくるのは、懐かしのゴダイゴ「ビューティフルネーム」ではないか。へえ、ゴダイゴがいまメキシコで人気あるのかななんて訝りながら広場に戻ると、舞台上では手品がはじまっていた。
まわりの観客は、その手品師は日本人だという。近くまで行って顔を覗き込むと、なるほどそのようだし、話術のなかにも日本の話題が出てくる。メキシコで日本人が手品師という仕事を選んだことに感心しつつ、こんな片田舎で彼とオレの時間が交差したことに運命を感じ、終わったあとに話しかけようと思っていたのだが、移動して散々遊んだあとの空腹(とビール飲みたい病)に勝てなかった。話をしておけばよかったなあといまも後悔している。