モロッコ人のオレの日本人の友達ウシロ|Travelogue
オレはモロッコ人のモハメッド(仮称)。マラケシュ在住。むかし日本人と友達になった。ウシロって呼んでたけど、本名は知らない。20代後半で、オレよりだいぶ年上だったよ。
出会い
ウシロに会ったのはマラケシュの長距離バスターミナルだった。オレは失業中で、気晴らしと暇つぶしにガイドみたいなことをしてたんだ。日本に興味があったから日本語を勉強して、ときどき日本人観光客に声かけてた。
ウシロは最初は警戒して、オレの話に耳を貸さなかった。日本人が書いたメッセージを見ても「ふ〜ん」って感じでさ。でも、メディナ(旧市街)を歩いていると、バックパック担いだままのあいつがいたんだ。「シンパイしないで」って再び声をかけたら、ようやく話を聞いてくれたよ。
宿の場所がわからないって言ってたけど、そこはその宿の真ん前だった。こっちのホテルは間口が狭くて看板も出してないケースが多いからな。でも、入ってみると、イスラム建築の中庭に明るく日光が差し込んでるし、ひんやりとしたアラビアタイルが敷きつめられてるし、感じがいいんだぜ。ウシロも一発で気に入ったよ。
ジャマ・エル・フナ広場
夕方になったら広場で会おう、と約束した。で、一緒に大道芸を見物したり「モモタロー!」とか「オカマ!」とか声かけてくる客引きをいなしたり、ひときしり街歩きのスキルを教えてやったのさ。
エスカルゴのスープを飲んでるときなんか、「えっ、安全ピンで食うの!?」って面食らってたぜ。カタツムリ自体が小さいから、安全ピンくらい小さくないと身が取り出せないんだよ。
何泊かしているうちにすっかり仲良くなったから、オレはあいつにマジューンをつくって、「モロッコのおはぎだから食ってみろよ」と食べさせたんだ。マジューンって大麻入りのスイーツなんだよ。もちろん大麻入りってことは黙っておいたよ。
たしか広場近くのタジン料理屋だったと思うぜ。まずマジューンを一個食わせておいて、タジンを食べはじめたんだけど、「うまいうまい」って夢中になって食うわけよ。でもそのうち呂律が回らなくなってきてさ(笑)。
おもしろいから、オレだけ先に店を出て近くから観察してたんだけど、左右に揺れだして、椅子から転げ落ちたりするんだよ。店員もわかってるから、笑いを噛み殺してたぜ。
ちゃんと宿まで送り届けたから心配はいらないよ。単なるいたずらだよ。
スーク(市場)散策
ほんとは絨毯を買ってほしかったけど、バックパッカーが大きな絨毯買うことなんてほとんどないのは知ってるから、無理強いはしなかったよ。店の屋上で絨毯を天日干ししてるダチと一緒にミントティー飲んで、気持ちがいいから昼寝したりしてさ。
代わりにあいつは、タギーヤという縁なしのイスラム帽だとか、革製スリッパのバブーシュだとかを、お土産用にいくつか買ってたぜ。値切るのが楽しいみたいで、何件もハシゴしたけど、オレはそのへんはスルーさせてもらったな。値段交渉は海千山千のイスラム商人のほうが一枚上手だったぜ。
スーク近くのオレんちに招待したりもしたな。モロッコの住宅の玄関には、「ファティマの手」ってオブジェがドアノッカーとして使われているだろ。あいつが興味ありそうだったから、オレは片っ端から近所のドアをノックして、二人で走って逃げたのさ。日本ではピンポンダッシュっていうみたいだな。
ベルベル人の村
オレはベルベル系だから、親戚がいる近くの村を案内してやったこともあるぜ。バスで小一時間のところにあって、たまたま市が立つ日だった。
あいつ、髪がのびたから切りたいって言ってて、市には移動理髪師もいたから「ここで切っちゃえよ」って勧めたのさ。ユーカリの木の下で気持ちよさそうに散髪してたけど、短くしすぎだって怒ってたよ。だってオレが「短く」って床屋には言ったんだからさ、ウシロには内緒でね(笑)。
その村で休んでるときに、ウシロから上々颱風の「Sara」って曲を聞かせてもらったんだ。いや〜いい曲だね。イントロの弦楽器がなにか知らないが、日本に行ってみたいって思ったね。「この曲のモチーフはタイランドだよ」とか言われたけど、オレにとっては日本なんだ。行ったこともない日本の原風景がまざまざと浮かんできたよ。
サハラ砂漠の話
マラケシュのあとはワルザザート経由で、サハラ砂漠の夕日を見に行きたいんだと。よくある動機、凡百のコースだと思ったね。オレは行ったことないけどさ。
戻ってきてから聞いたところによると、ザゴラでは最高の夕焼けに恵まれたそうだ。一日の終りのアザーンの放送が鳴り響くなか、空の色の変化を暗くなるまで宿の屋上で眺めていたんだってさ。SNOWの「Lonely Monday Morning」を聞きながらって、そりゃミスマッチじゃないのかい? ザゴラにはナツメヤシのプランテーションがあって、意外と緑が多いんだってな。
ザゴラからマハミドまで行って引き返してきたそうだ。ラクダの砂漠ツアーは高いってぼやいてたよ。青空市を見ただけであいつのサハラ体験は終わったのさ。正直、マハミドはまだサハラとは言えないけどね。