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介護施設でインターン @デイサービスセンター
TOKYOかいごチャレンジインターンシップ、略して「かいチャレ」。これは、インターンシップを通じて介護の人材不足解消を目的とした、東京都の事業である。
80代の両親、母(大阪在住)と義父母(千葉在住)とは離れて暮らす。幸か不幸か、介護とは無縁の日々。何かあっても、親が頼るのは、実家暮らしの弟たちだ。遠くに住む娘や息子(私や夫)は、あてにできないのだから、さもありなん。デリケートな問題は、腫れ物に触るように扱われている。現実から隔離されているような状況に、漠然とした問題意識があった。そんな時に、かいチャレのことを知る。百聞は一見に如かず。この制度を利用すれば、介護のリアルに触れ、現場を肌で感じられると思い、さっそく応募してみた。
初インターンには、心理的ハードルの低い事業所を斡旋してもらった。デイサービス(通所)施設なら、利用者の介護度は低いらしい。自宅から徒歩30分。Googleマップのナビは、目的地に到着したことを告げるが、それらしい建物がない。地図上の赤いマークは、住宅の中を示している。よく見ると、路地の奥に水色の一軒家がある。まさかと思いつつ、表札を確認した。デイサービスセンターS&S(仮称)。古い木造住宅で、初っ端から驚いた。
定員10名。アットホームなところなのだろう。デイサービスということで、ちょっと高を括っていた。「比較的元気な高齢者が施設にやって来る。みんなで体操でもして半日過ごすのだろう。そのくらいなら何かしら手伝えることもあるかもしれない」。とんでもない、勝手な想像だった。
午前10時。玄関扉を開けると、ベテランヘルパー金井さんが迎えてくれた。玄関わきのキッチンには夜勤明けのスタッフと施設長がいた。「え、夜勤?」。通所の施設で夜勤があるのかと尋ねると、ここは宿泊利用もできるという。何だか聞いていた話と違うな。
キッチンから見渡せる10畳ほどのリビングには、6名の利用者が座っていた。塗り絵をする人、テーブルに突っ伏しうたた寝をする人、ぼんやりしている人。天井のシーリングライトは部屋を十分に照らしている。テレビからは軽やかな童謡が流れている。にもかかわらず、部屋の空気は暗くて重い。目にしたことのない光景に、強いショックを覚えた。
日本老年学会では、90歳以上を「超高齢者」として区分している。ここの平均年齢は92歳。通所施設としては、かなり高め。理由は宿泊を受け入れているからだとか。今日はいつもより人数が少ない。男性1名、女性5名。泊りが5名で、認知症が4名。特別養護老人ホームの空きを待っている人が2名いる。ということは、介護度は3以上なのだろう。会話はなく、出された食事を食べ、排せつを訴えるだけ。活動量はきわめて低い。初インターンにとっては、ハードルが高かった……。
そのうちの一人、マサコさん(94)は、2月に利用を開始して以来、ずっとここにいる。はじめのうち、大声を出すなど、スタッフや他の利用者への迷惑行為が続いた。やむなく鎮静剤を処方してもらうことに。以来、おとなしくはなったが、認知症が進んだという。マサコさんがトイレに行きたいというので、金井さんが連れて行った。マサコさんは立つことも歩くことも一人ではできない。リビングの横にあるトイレには、扉の代わりにカーテンが引かれている。下(しも)の世話を見学させてもらった。ケアパットの交換や、尻拭きなど、慣れた手つきですぐに終わった。
金井さんが入浴の介助をしている間に、昼食準備が始まった。煮物の盛り付けは、比較的しっかりしているセキさん(92)の担当のようだ。マサコさん以外には、普通食を出す。ごはんとみそ汁と一品は施設で作るが、あとの2品はレトルトの介護食をあたためる。盛り付けを完了すると、施設長が写真を撮った。何を提供し、どのくらい食べたか、記録が求められているという。
唯一の男性利用者、オオツボさんは、昼食をほとんど残した。施設長がグラスにカロリーメイトのようなドリンクを注ぎ、オオツボさんに差し出す。金井さんによると、「ここの食事が口に合わないのだろう」と。「あんパンでもなんでも、好きなものを食べさせれば良いのに。食べないと認知が進む」。
4時間のインターンが終わった。結局この日手伝ったのは、昼食の準備と後片付けだけ。「インターンがいる」以外は何事もなく、いつも通りだったのだろう。初めての介護体験。最初に受けたショックは、時間とともに和らいでいた。だが、人の一生、幸せとは何か、そんな哲学めいたことを考えるようになった。
かいチャレは続く。あと2回、2カ所にお邪魔する予定だ。この経験がどう生きるのかは、わからない。だが、この夏は間違いなく「介護」について考える時間になりそうだ。
関連情報:TOKYOかいごチャレンジインターンシップ