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吸ったらチャラのため息

高校生のとき、ため息を吐く度に、隣で息を「ハアッ」と吸ってくれる男がいた。「ため息を吐くと幸せが逃げる」という迷信を信じていた、彼なりの解決方法だったようだ。

「そのため息を俺が代わりに吸ったら、全部チャラになるから大丈夫」と言ってよく笑っていた。

残念ながら、当時の私にはその理屈が全くもってピンとこなかった。ため息をつくのにはそれなりの理由があって、それは来月のクラス替えが不安だとか、毎日ランニングをしないと体育の成績に2をつけるぞとゴリゴリの体育女教師に脅されていることだとか。都度律儀に息を吸ってくれるくらいなら「どうしたの?」と、気にかけて心配して欲しいのにとむくれていた。

でも今思い返すと、浮かない顔のわたしの隣で余計なことは何も言わず、息を思いっきり吸っては「セーフ。幸せ逃げなかったね」とまるで大仕事をやり遂げたように満足気に笑いかける彼は、ぽかぽかっとする人だったなと思う。

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