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『海に眠るダイヤモンド』伏線だらけの脚本が秀逸!考え抜かれた演出と相関図にも注目〜第1話〜

儚くも鮮やかに輝いた『海に眠るダイヤモンド』が、ついに完結を迎えた。最終話から、もう一度1話を観直すと、冒頭のモンタージュが放つ意味の深さに息を呑む。

リアルタイムで初めて観たときは、「これから何が始まるのか?」と手探り状態だったことを思い出す。まるで宝石のように散りばめられた数々のシーンは、単なる伏線ではなく、登場人物たちの運命を暗示する詩的な序章だった。特に、静かに漕ぎ出される小舟のシーンは、今となっては胸を締め付けられるような重みを持つ。

現代パートの舞台は、近年メディアでも頻繁に取り上げられ、社会問題としても注目を集める歌舞伎町。ドラマや映画で度々描かれてきたこの街並みは、多くの視聴者にとって馴染み深いものかもしれない。しかし、本作はその喧噪を単なる背景として消費することなく、新たな切り口で描き出す。私の想像をはるかに超えていくものとなった。

公式HPより引用
公式HPより引用

あらすじ
「私と、結婚しない?」2018年夏、東京。
その日暮らしのホスト・玲央(神木隆之介)は、出会ったばかりの怪しげな婦人・いづみ(宮本信子)から、突然プロポーズされる。ホストクラブに案内すると玲央のために大金を使ってくれるいづみ。都合のいい客に巡り会った玲央は、後日再び現れたいづみの誘いに乗って、軽い気持ちで長崎を訪れる。フェリーに乗る二人だったが、近づいてくる端島を前に、いづみは想いを馳せて・・・。
1955年春、長崎県・端島。炭鉱員・一平(國村隼)の家に生まれた青年・鉄平(神木隆之介)は、島外の大学を卒業後、島の炭鉱業を取り仕切る鷹羽鉱業の職員として端島に戻ってきた。同じ大学を卒業した幼馴染の賢将(清水尋也)と百合子(土屋太鳳)も帰島した。鉄平の兄・進平(斎藤工)や島の食堂の看板娘・朝子(杉咲花)、鉄平の母・ハル(中嶋朋子)ら、皆が鉄平の帰島を喜ぶなか、一平だけは激怒する。さらに鷹羽鉱業の職員で賢将の父・辰雄(沢村一樹)もまた、息子の就職先については思うところがあるようだ。
同じ頃、端島に謎多き美女・リナ(池田エライザ)が降り立つ。歌手だというリナに、興味津々の鉄平たちだが・・・。
未来への希望と活力に満ちた高度経済成長期の端島と、どこか閉塞感が漂う現代の東京。70年の時を超え、2つの異なる場所をつなぐ若者たちの物語が今、幕を開ける――。

公式HPより引用

『海に眠るダイヤモンド』第1話、いづみの心に秘められた想いの正体

いづみの「私と結婚しない?」という何気ない一言は、実は40年の時を超えて、最愛の人・鉄平への叶わなかったプロポーズだった。

ホストクラブで目を輝かせるいづみの「キラキラしたの大好き」という台詞。当時から変わらない、キラキラしたもの(ギアマン)への愛着が、この瞬間にも確かに息づいていた。そして、ちゃんぽんを玲央に食べさせるシーン。朝子が働く銀座食堂で若かりし日の鉄平がちゃんぽんを食べる姿と重ねていたのだ。

「長崎でちゃんぽんを食べるいづみと鉄平」公式HPより引用

特に印象的なのは、2人が端島(軍艦島)を目にした時のシーン。玲央の「まじ廃墟じゃん」という何気ない一言に、いづみが見せた激しい感情の揺れ。「廃墟なんかじゃない」という反論の言葉に隠された強い思い。その涙の理由が、物語の終わりで明かされる時、観る者の胸は大きく揺さぶられるのだ。

『海に眠るダイヤモンド』に描かれる、端島炭坑の誇りと差別の痛切な記憶

本作は、端島(軍艦島)の炭鉱が日本の産業発展に果たした重要な役割を、丁寧に描き出している。しかし同時に、その誇るべき歴史とは裏腹に、端島出身者たちが直面した理不尽な差別の現実も鋭く切り取る。

「百合子」公式HPより引用

印象的なのは、電車内での心揺さぶるシーン。端島出身であることをバカにされ落ち込む鉄平、賢将、百合子の姿は、当時の社会が抱えていた偏見の深さを如実に物語る。特に、鉱員として懸命に働く兄と父への誇りが、周囲の軽蔑によって傷つけられる様は、胸が締め付けられる。

そして、涙する鉄平に向けられた百合子の「泣かないでよ。私まで泣きたくなる」という言葉。この何気ないセリフが、最終話で明かされる鉄平と賢将の最後の対面シーンで、今度は鉄平から賢将へと向けられる「泣くなよ、こっちまで泣きたくなる」という言葉と呼応する。脚本家・野木亜紀子による、この絶妙な伏線回収に、物語の深い重層性を感じずにはいられない。

『海に眠るダイヤモンド』主題歌に込められた心情

本作の主題歌『ねっこ』(King Gnu)は、単なるBGMを超えて、物語の本質を象徴する重要な要素として機能している。特に印象的なのは、リナの告白シーン。リナは自身の人生を振り返り、「ねっこがちぎれた海藻みたいに漂って、流されて、転々と……。そういう人生だった」と語る。

根を失った存在として漂い続けた人生を語る彼女の言葉は、まさに楽曲のタイトルと見事に呼応し、その人生の孤独と彷徨を鮮やかに浮かび上がらせる。

「リナ」公式HPより引用

リナのセリフの中に主題歌のタイトル「ねっこ」が登場するのは興味深い。野木さんは、巧みに主題歌を物語に織り込み、登場人物の心情を表現している。リナのセリフを通して、主題歌の持つ意味合いがより一層深まり、視聴者の心に強く訴えかける。音楽と脚本の見事な調和が、作品の感動をさらに増幅させているのだ。

リナへ「人生変えたくないか?」と問う鉄平

ドラマの核心となるシーンで、鉄平がリナに投げかけた「人生変えたくないか?」という言葉。この重要なフレーズが、現代パートでいづみから玲央へも発せられる展開は、視聴者の想像力を刺激する絶妙な仕掛けだ。

いづみの正体を巡る巧みな伏線。第1話から視聴者の間では「いづみ=リナ説」を筆頭に、様々な憶測が飛び交い、SNSでも考察が白熱した。

後に、いづみは朝子であることが判明するのだが、このシーンをよく見返すと、リナが島を去ろうとするときに朝子はその場に駆けつけている。実は、リナと鉄平の掛け合いを側で聞いていた朝子が、このときの鉄平の言葉を玲央にかけたのだ。

「朝子」公式HPより引用

次週が待ち遠しいのはいうまでもなく、考え抜かれた脚本と演出に、期待が膨らむ1話であった。


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