散歩。
左手の温度が伝わる間に
追い越してくメッセージ・トレイン
私はよく、恋人と散歩をする。
駒場にある家から、渋谷か、池尻大橋か、下北沢かに目的地を決めて、二人でゆっくり歩いていく。大抵は本屋さんを見るか、カフェで少し話すかして、また家まで戻ってくる。時間によっては、一、二杯飲んで帰ってくることもある。
歩いている間、私たちはその時思いついたいろいろなことを話して、小さな幸せを噛み締める。
そこでの時間の流れと、井の頭線が90周年を記念して12月に走らせるという「メッセージトレイン」から着想を得て、短歌を詠んだ。
外に出て歩き始めると、君の左手が私の右手に絡まる。
温かい。私は冷え性だから、いつもこうやって君から温度が伝わる。
井の頭線沿いを歩いて下北沢に向かう途中、後ろから地面の振動を感じた。
電車が通る。
視線を右にやって、君ごしに通り過ぎていく電車を見た。5秒するかしないかという内に、振動を残して電車の後ろ姿が現れる。見慣れないヘッドマーク。手紙が描かれているのがうっすら見えた。
「見えた?手紙のマーク。電車の後ろ。」
「よく気づいたね、見えなかったよ。」と君。
「何だろうね、」と呟いた3秒後には、もう次の話題に移っていた。
一瞬一瞬が儚くて少し温かい、私たちだけの時間が流れてゆく。
(メッセージトレイン
https://www.keio.co.jp/news/update/news_release/news_release2023/nr20231124_messagetrain.pdf)
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