帰省の便り (#詩と暮らす)
詩と暮らす祖母は、切り取った生活の一部分を真っ白のハガキにさらさらと書きとめ、離れて暮らす私の元へとよこした。
祖母の詩は俳句のようで、短歌のようで、時には小学生の書いた作文のように自由なカタチをしていたけれど「何でも詩にして暮らしていたら、毎日が少しきらきらするさね」そう祖母はいつも笑っていたから、あれは俳句でも短歌でも作文でもなく、立派な詩なのだ。
しいの実いっぱい拾ったよ
落ち葉を掃きつつ思い出す
めんこいあの子
風吹いて 集めた落ち葉は飛んでった
じいさん慌てて 追ってった
帰省の便り にぎやかになる庭
帰省の朝、ポストに届いていたハガキには祖母らしい詩が書かれていた。
見慣れた字がいつもよりずっと踊っている。
詩はハガキからぴょんぴょんとアスファルトへ飛び出して、一列になって小躍りでもするように進んで行く。
「飛」が飛んできて私のマフラーにちょこんと乗っかった。
「吹」は後ろからふぅふぅと吹いて「追」はやはり私の後ろへと回った。
「実」はコロコロと転がりながら、全ての文字がそれぞれの表現で駅の方へと向かっていた。
駅の方向がわかるんだ。
感心しながら進んでいく詩を眺めていると「葉」が列からはぐれて「風」が連れ戻す。
ばあちゃんはやっぱりすげぇ。
「追」がスニーカーを力いっぱい押して急かす。
ああ、止まっていたら追えないもんね。
ごめんごめん、と駅までの道を詩のあとに続く。
「追」が嬉しそうに私の後を追いかけて来る。