#38 ーうつ病みのうつ闇ー 再び途方に暮れる…新たな戦略
メンタルクリニックに通いだして、少しづつ元気になっていると思い始めたが、病状は足踏み状態になり…その後、急速にやる気が出なくなってしまった。何だかとても嫌な感じがした。
そんなある日のこと。朝から何だか気持ちが落ち着かず、理由もなくそわそわしていた。そうこうするうち、座っていることができなくなり、部屋の中を行ったり来たり、うろうろしだした。
しまいには、部屋にいるのも居たたまれなくなって、近所のカフェに逃げ込んだ。数か月前に不思議な縁で出会った小さなカフェの店主は、カウンター席で落ち着かない私の様子に気がつき、さりげなく優しい香りのコーヒーを出してくれた。
心配してくれているが、ズカズカ入り込んでくるわけでもなく、そっと見守ってくれている店主の気配が感じられ、しばらくゆっくり過ごすうちに何とか落ち着くことができた。
薬の副作用の可能性もあるが、過去のうつ病の時も服薬前に、繰り返し同じ症状があった。強烈な不安感から来るのか…最初のうつ病で倒れた時のように、過呼吸が起きなかったのが幸いだった…
良くなってきていると思ったのに、前より悪くなっているのでは…?と不安になる。その後しばらく、そわそわすることがあったが、何とか酷くならずに済んだ。やる気が出せないのは相変わらずだが。
そして数か月が過ぎた。相変わらず調子は良くならず、薬を増やせばいいというものでもなさそうな気がした。自分に何が起きているのかしっかり向き合うべく、数枚の絵を手掛かりにして、潜在意識にアクセスしてみた。
その結果は…自分が憎む相手を破滅させるため、自分もろともその相手を闇に葬(ほうむ)ろうと、躍起(やっき)になる闇の自分――物凄く激しい憎しみが、浮かび上がってきた。
自分の中にまだそそんなにも激しい憎しみが存在していることにショックを受けた。これまで感じた中で、最も激しい痺(しび)れるような憎しみだった。狂気という言葉がピッタリだった。
自分の中の闇は、消えてもいないし、小さくもなっていない。これでは、うつ病がよくなるはずもない……良くなろうとすれば、必ずそれ以上の力で引きずり戻される。いつもの膠着(こうちゃく)状態。私は変わることなど、できないのかもしれない。
こんな私の闘いを、私が望んでいるんだと言う他人もいる。「そういう苦しいことするのが、好きなんだよね」「あなたが止めようと思えば、簡単に止められるんだよ」「あなたみたいに変わらない人いない」そんなことを言われるたび、なぜ私にはできないのかと自分を責めた。
そして今……私の闇は、自分を苦しめ葬りたいのだから『その状況を望んでいる』というのも真実だ。ということに気がついた。
でも、そういうことをいう他人は『もうこんな苦しい生き方はしたくない。シンプルに楽しみながら生きたい』と切望する、もう一人の私が存在していることを理解していない。二つに割れた私の魂―—
「二人の自分がいる」と訴えても「誰でもそうだよ」「みんな葛藤はあるんだ」とか、そんな風に片付けられてしまう。皆多少の葛藤や、心に善と悪があるとはわかっても、その振り幅の大きさや、闘いの激しさに違いがあるとまでは思い至らない。解離性同一性障害でもない限り、ある程度は一貫していると思い込んでいる。
私が他人の心の中をわかるはずもない。そして、他人も私の心の中をわかるはずもない。それでも、その心の声を、聴く気があるかどうかだ。聴く気のない人に、説明する方法も義務もありはしない。
私の中には、悪魔祓いの神父と悪魔が同時に存在し、両者はどちらも紛(まぎ)れもなく私なのだ。そして互いに、己の生存をかけて激しく闘っている。文字通り殺し合いだ。
再び…途方に暮れた。様々な戦略を絞り出し、駆使(くし)して何とかここまで来た。これ以上何ができるというのか…私の存在意義なんてありはしない。いや…自分を粗末に扱った人間の、惨めな末路を証明することなのだろうか…
矢尽き、刀折れ…戦場でがっくり膝をついた心境だった。しかも耳元では、敵の射程(しゃてい)にロックオンされた!と警報が鳴り響いている――
遅い日の出…早い日の入り…いく度も繰り返し…途方に暮れたまま、何日も過ぎた。今まで何度ももうダメだという場面があった。どうやって乗り越えてきたのか…
そういえば、ゴールを決めるんだっけ。激しい憎しみを消すには…?ところで何をそんなに憎んでるんだろう…そして、私の中から浮かんできた言葉で、自然とアフォアメーションができた。
『私は私を憎むのを止めます。私は私を幸せにすることを私に許します』
潜在意識から憎しみが浮かび上がるたびに、そう呟いた。心の中で。口に出して。同時に、私の中にある黒い闇を光で溶かすイメージを思い浮かべ、血管を通して全身に巡る、闇の欠片も溶かしていく。
そしたら、息の詰まるような苦しみが、ちょっと楽になる。憎しみに振り回されそうな心に、錨(いかり)がついたみたいだ。それでも時には、その錨ごと引きづられたりもするけれど。しばらくは、この戦略で何とかなりそうか…
なんだかんだ言って、本当に私ってしぶといなと思う。諦めれば良いのに、しつこい。やはり、闇は私の一部なんだなと思う。しつこくて、しぶといから。
わたしの中の神父と悪魔よ。和解してとか、共存してとは言わない。闘わなければいい。永遠に休戦して、各々の場所で棲み分けしておくれ。