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【映画 解体真書】22.「オーダー」(24・米)
この作品は実話であるからこそ破綻を顕す兆しを垣間見せる。
(未見の方々を配慮して、なるべくネタバレを控えております)
何故なら、実話を基にしているがゆえにこそ、物語の重要な転換点が安易に処理されている。原作ノン・フィクション「The silent brothers」を未読の上でこのような記述をするのはフェアではないのであるが、事実もまた安易に事件の展開が進んだのかもしれない。
最も安直に転換した箇所をただひとつだけ挙げておく。
それは、作品のクライマックスに当たる「隠れ家」の場所がいとも簡単に判明することであるーー事情は作品をご覧ください。ーー敵は愚鈍ではないと感じる。
作品が極めて優れており、かなりの質を秘めているためにこそ、脚本の不備が惜しい。
監督(ジャスティン・カーゼル)の手腕は見事であるが、「エンターテインメント」としての演出に偏りがちのため深みに欠ける。
主人公(ジュード・ロウ)の人間を深く抉るほどの描き込みも乏しい。
これは脚本家の洞察力の不足かもしれない。
敵(ニコラス・ホルト)が出色の演技を光らせており、その人間性(思想)も現実感を伴って迫る。
撮影の美しさ(ロケーションが素晴らしい)、音楽の控え目ながらも盛り上げる効果的な作曲も素敵だ。それらを含む、スタッフ陣も気を引き締めた見事な創造をしている。
恐らく、詳細な原作ノンフィクションを基にしているのであるから、もっと重厚で社会的問題提起できうるほどの作品となりえた筈であるから、あくまでも惜しい。
ただ「エンターテインメント」作品として捉えるならば、秀作である。
だからこそ、私はこの作品に多くを求めてしまうのかもしれない。