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酸ヶ湯温泉湯治 初夏の巻Ⅱ

酸ヶ湯温泉の夜が明けた。
部屋の窓は障子状の二重サッシだから、午前四時ともなるとかなり明るい。泊り客が朝風呂へと繰り出す足音が次々と響く。温泉三昧の幕開けである。

まずは、午前7:30に食堂に向かう。酸ヶ湯温泉旅館の朝食はバイキング形式である。筋子等の青森の美味しいものを少しずつ食べられる酸ヶ湯温泉のバイキングは気に入っていたのだが、最近の物価高の煽りを受けて近頃はあまり特色が無い。それでも、白米の銘柄は「津軽ロマン」、味噌汁は「けの汁」、自家製豆腐などが並び、日によって多少品揃えが変わる。

湯治棟に向かう廊下に「酸ヶ湯」の扁額がかかる

朝食を終えて次に向かったのが、温泉療養相談室である。
連泊する機会あればぜひ訪ねたいと思っていたのだ。ここでは200円の有料だが唾液アミラーゼによるストレスチェックをしてくれるのだ。「酸ヶ湯」の扁額をくぐると右手に温泉療養相談室が見えてくる。

相談室にはベッドとソファが置いてある

相談室の温泉利用指導者、塩崎さんに、昨晩「玉ノ湯」に入ってから興奮気味で寝付けなかった旨を話し、滞在中の湯治の仕方を相談すると、塩崎さんはヒバ千人風呂の、それも「熱の湯」の素晴らしさを力説し始めた。

混浴に抵抗を感じる女性がこれを避け男女別の「玉ノ湯」にしか入らないのはたいそう勿体ないとのこと。売店ではレンタル湯浴み着を500円で貸すサービスがあるので、ぜひこれを利用して1日2~4回のペースで「熱の湯」を堪能してほしいとの助言だった。

日帰り入浴客にも好評のレンタル湯浴み着

ヒバ千人風呂の中には、「四分六分の湯」や「冷の湯」、「湯滝」など源泉が異なる湯が数種類あるが、中でも、天然の重曹と言われる遊離炭酸が含まれているのが「熱の湯」とのこと。この成分が皮膚から体内に入り血液循環を促進させ、老廃物や痛み物質の排泄を促す。「四分六分の湯」よりも湯温はずっと低いのに、「熱の湯」は後からじんわり効いてくるのはこのためである。

冬場は辺りの冷えのせいで、もうもうと湯気が上がって自分の足下さえ見えないヒバ千人風呂だが、夏場は視界がクリアである。これまで女性専用時間帯でしか入ったことのないヒバ千人風呂。最初は尻込みしたが、湯浴み着を味方につけてしまえば混浴もなんのその。

気が落ち着くと、お湯の小さな変化にも気づくようになってくる。
時々小さな泡が足元から上がり、スルリと足肌を撫でていく大きな泡も。
ああ、これが湧泉による泡かと感動する。次はいつ来るかと楽しみになる。

こうやってじっくり湯に浸かり、身体が火照った後に飲む清水は、殊の外美味かった。

木霊清水 南八甲田駒ヶ嶺中腹から引かれた冷たい湧き水


清水を片手に「御鷹々々サロン」で涼む

入浴は食後1時間時間をおくこと、入浴後はすぐ横になって1時間ほど休むこと。入浴した時間をなんとなくメモをしておいたら以下のようになっていた。
 一度目 午前 9:00
 二度目 午後 3:00
 三度目 午後 7:00

何をするでもなく万年床の上ででゆるゆる眠ったり、本の頁をめくったりしながら過ごす。

売店では生姜味噌おでんやそば饅頭などをテイクアウト

午後の散歩で、売店の冷凍庫に念願の凍み豆腐を見つけて、早速購入。調理方法を聞くと、沸騰しない程度のお湯に浸して戻し水で押し洗いする。これを2回ほど繰り返してから出汁などで煮ると教わった。時間を気にする必要がない湯治の賄い飯だから、多少の手間も新鮮だ。

酸ヶ湯凍み豆腐 税込360円

パッケージに添えられた説明書によれば、酸ヶ湯温泉では昔から保存食として凍み豆腐が作られていたそうで、最良の国産大豆を厳選し手作りにて誂えている、とある。

ありあわせの野菜とシメジ、凍み豆腐の含め煮

含め煮にした豆腐は、細かな気泡がスポンジ状の柔らかな歯応えを作って優しい味だ。夕方から雨となり山の空気もひんやりと変わったから、暖かい食事はありがたかった。

気のせいか昨晩よりカエルの合唱もおとなしくなっていた。




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