危険な家畜伝染病 アフリカ豚熱(ASF)の状況
写真:ASFウィルス(独)農業食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所
家畜伝染病アフリカ豚熱が韓国釜山で発生
豚が感染する危険な家畜伝染病には、2010年3月に宮崎県で発生し多くの家畜が殺処分された口蹄疫(FMD、牛や羊にも感染する)、2018年岐阜県で発生し北海道を除く全国に感染地域を広げた豚熱(CFS、当時は豚コレラと呼ばれた)そして現在、日本と台湾を除くアジア、ヨーロッパなどで流行しているアフリカ豚熱(ASF)がある。
これらの家畜伝染病は感染力が非常に強く瞬く間に蔓延(パンデミック)となる。 なお、FMDやCSFにはワクチンがあり、ある程度は感染をくい止める事は可能だが、ASFにはワクチンも治療法もないため、感染したら最後100%死亡する養豚生産者が最も恐れる伝染病である。なお、ヒトには感染しないので安心して良い。
中国から北朝鮮へ、そして38度線を越えて感染イノシシが侵入
このASFが2023年12月22日に韓国釜山広域市の野生イノシシから感染が確認された。 韓国には北朝鮮から2019年9月に発見されて以来、かなりの数のASFに感染したイノシシが38度線を通過して侵入しているため、韓国政府は防疫に力を入れているものの、韓国北部では感染が防げない状況になっている。それが初めて韓国南部の釜山で感染が見つかったのである。2024年1月29日時点でイノシシでは3593件、飼養豚では38件の発生件数となっており、今後もASFは増え続けるものと思われる。
危機感を持つ日本政府
特に今回は地理的に近い釜山での発生であることから、2月2日に坂本農水大臣がテレビで、「日本への侵入リスクがかつてないほど高まっている」と強い危機感を示した。特に2月10日からは旧正月(春節)となり、航空機のみならずフェリーなどでASF汚染地域である韓国や中国、香港、東南アジアから日本各地へ非常に多くの訪日旅客が見込まれるため、水際対策としてASFウィルスなどに汚染された食肉製品の持ち込みを厳しく取り締まる検疫の充実が図られている。
統計が信用できない中国の状況、感染豚が台湾に漂着
ところで、2023年3月末現在での公式データによると、中国のASF発生件数は、東アジアで初めて感染が遼寧省で報告された2018年8月3日から現在までの4年半の累計でたったの203件(豚、野生イノシシ合計)という事になっている。2019年に中国の豚の飼養頭数は約1億頭減少したが、ASFに感染した豚が殺処分されたのであれば、広大な埋却場が必要になるのだが、まったく殺処分された気配が無い。すなわち、殺処分数は非常に少なく、感染した豚は検査することなく食肉処理されたか、もしかすると揚子江や黄河など河川に流されたようだ。2021年4月に台湾本島新北市万里区の海岸に漂着した豚の死体からASFウイルスが検出されたことからも推測できる。幸い日本の海岸にはASF豚が漂着していないが、困った問題である。
お隣の韓国では2019年9月16日からの累計で3631件(豚、野生イノシシ合計)、ベトナムでは8061件(豚、野生イノシシ合計)発生報告がWOAH(国際獣疫事務局)になされている。中国の飼養頭数は韓国(約1000万頭)の約45倍の4億5千万頭であることから考えても203件しか報告が無いのは誰がみてもおかしいのである。このように状況の把握ができない中国では、家畜伝染病(ASF、CSF、口蹄疫、鳥インフルなど)の撲滅は全く不可能なことは明らかである。
台湾当局は肉類の違法持ち込みに罰金87万円
農畜産業振興機構の海外情報(2019年12月25日発)によると、台湾の動植物防疫検疫局が、台湾入国者の豚肉製品の手荷物検査を集計したところ、罰金20万台湾元(87万円 現行レート4.35)を科された件数は2018年12月18日~2019年12月22日の約1年間で合計653件、総額1.3億台湾元(5.7億円)摘発され、出国地別にみると、大半を中国が占めていたとの事である。台湾では空港の検疫所に申告せずに隠れて持ち込もうとして肉類が発見された場合に罰金を徴収され、もし罰金を支払えなければ入国拒否されるくらい厳しい体制をとっている。
日本は違法持ち込みに300万円(個人)5000万円(法人)の罰金
先述の通り中国全土では、家畜伝染病ウイルスは食肉、食肉製品などいたるところに存在し、それらがヒトによって持ち込まれる可能性がある。現に羽田、成田、関空、新千歳、福岡などの空港では摘発され没収された肉類の一部からASFウィルスが検出されたという恐ろしい話もある。
また今後増加が予想される東南アジアや欧州など、ASF発生国からの訪日旅行客に、周知徹底するとともに既に行ってはいるものと思うが、厳重な水際対策によって、違法な食肉や食肉製品を持ち込ませないようにすることが非常に重要である。特に中国人にとって、命の次に大切な金銭を違反者から、台湾当局同様に罰金として漏れなく徴収していただきたいものである。