平井でデジタル金魚が泳ぐ日
1.プライドオブ平井
平井に住み始めて12年が経った。平井の近く、小岩~亀戸の総武線沿線ということでいえば20年になる。「平井に住んでます」と言ってもすぐに分かってくれる人はなかなかいない。だから「錦糸町・亀戸の隣にそんな場所があるんです」と言ったり、「ざっくりスカイツリーの方です」と言ったり、「江戸川区です」と言ったりすることもある。でも私は、そんな「知る人ぞ知る」場所であり、川と川に挟まれたゆったりのんびりとした住宅地であるということをけっこう気に入っている。
私は、好きになったものについて色々調べるのが大好きな人間だ。当然、平井や小松川、旧中川などについてもいろいろ調べてきた。そうして分かってきたのは、いまの平井や小松川は、いわば「江戸川区の近代化」を切り拓いてきた場所だということだ。たとえば江戸川区における最初の工場は、明治3年に中平井村にできた松岡醤油醸造所であるという。また、江戸川区で最初の駅は明治32年4月に開業した総武鉄道の平井駅だ。早い時期からエンターテインメントも栄え、大正年代から小松川や平井には寄席や映画館が開業し人気を集めていたという。そして平井には花街まであった。昭和7年に江戸川区が成立したときには、最初の区役所は小松川に置かれた。このように、平井・小松川地域には、地元住民としてはちょっと誇らしい歴史がある。
そして今回の本題である「金魚」だ。江戸川区は「日本三大金魚産地」のひとつとされるが、江戸川区で最初に養殖が行われた場所のひとつもまた、平井なのである。
2.デジタルで復活?
しかし、今となっては平井には金魚の面影は少ない。養殖池は戦後すぐになくなってしまったようで、いま、平井で生きている金魚を見られるのは、吉野湯の池と、ホームセンターにある熱帯魚専門店くらいだろうか。
そんな平井で、「金魚」のイメージを復活させることはできないだろうかということを考えている。金魚がひらひらと泳ぐ姿は、平井のゆったりのんびりとした雰囲気に似合うし、かつての華やかな印象を彷彿させるところもある。近年増えている中国系の方々との共通の話題になるかもしれない。さすがに養殖池の復活は難しそうだし、金魚を鑑賞できる場所を増やすというのも簡単ではなさそうだが、平井の街を象徴するものとして、いろいろなところで金魚のイメージを目にするようにする、くらいのことはできないだろうか。
まずは、さまざまなデジタル技術を使って、「平井の金魚」を復活させることを考えてみよう。いくつか面白い妄想が浮かんできた。
・金魚オープンデータでグッズ制作
著作権が保護期間が終了したり、著作者が自由な利用を認めたりした画像・映像・テキストなどのデータを「オープンデータ」という。誰もが自由に使用・編集・共有することができる。この「ブリコルひらい」のアイコンで使用している擬人化された金魚も、江戸時代の浮世絵画家、歌川国芳の「金魚づくし」シリーズから切り取ったもので、著作権を気にせず自由に使える素材だ。こういったキャッチーな金魚の画像や写真を使って、さまざまなグッズを作り、平井あちこちで金魚を見かけるようにしていくことができたら楽しそうだ。
・街なかをデジタル金魚が泳ぐ
スマートフォンの人気ゲーム『ポケモンGO』では、実際の場所に紐づいてキャラクターが登場するAR(拡張現実)という技術が使われている。この技術を使い、平井の街のあちこちでスマートフォンの画面越しに金魚を泳がせてはどうだろう。錦糸町駅北口にある巨大なドーナツ型のモニュメントや、亀戸駅北口にある羽が生えた亀(玄武)の親子像のように、スマートフォンをかざすと平井の駅前でバーチャルな巨大金魚が泳いでるようにしても面白そうだ。平井駅周辺の3Dデータを使って、バーチャルな街並みの中にバーチャルな金魚を泳がせてもよいかもしれない。そうなるとVR(仮想現実)技術の世界ということになる。
3.大和郡山に学ぶ
江戸川区と並ぶ金魚の産地である奈良県の大和郡山市では、有志のエンジニアグループ「CODE for YAMATOKORIYAMA(コードフォー大和郡山)」が、#金魚オープンデータ というプロジェクトを行っている。これは、金魚の品種に応じた飼育アドバイスをできるアプリ「Kingyo AI Navi」の実現を目指して、AI(人工知能)が写真画像から自動的に金魚の品種を判別するための学習用データを市民参加型で集めるものだ。ほかにも、「まちなか金魚生息地マップつくり」という地図作りや「ロボット金魚すくい」(ロボットの金魚をすくうのではなく、金魚をすくうロボットを操るもの)など、楽しそうな取組みが継続的に企画されている。
こんな、創意工夫にあふれた「街と金魚」のかかわりも面白いだろう。平井でも是非、街と金魚の新しいかかわりを作っていくことを考えていきたいと思う。
参考文献:
江戸川区『江戸川区史』第三巻, 江戸川区, 1976.
文責: 庄司 昌彦
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