こぶとり爺さん
わたしは左頬にえくぼがある。右にはない。
よくこのえくぼを褒められる。
片方のえくぼいいね!
まるちゃん、左だけえくぼあったんだ、かわいいじゃん!
わたしは嬉しかった。
しかし、これはえくぼではなく傷跡なのだ。
大丈夫、これは悲しい話ではない。
幼稚園のときのマイブームは平均台だった。細い台を、おっと危ない!とハラハラしながら渡るのが大好きだった。
わたしは運動神経が良かった。そのため、こういうスリル満点の遊びは大好物だった。
先生が出してくれる平均台に物足らず、わたしはいろんな場所で根性試しをした。
砂場の淵、花壇、歩道と車道の間。車が通る道はさすがに親に怒られたが、あのときはなんでも遊び場所になった。
それでも飽き足らず、わたしはブランコを囲う、あの台まで平均台にしてしまった。あれはすごく細かった。たのしかった。わたしは得意げになってあの平均台で遊んだ。
あるとき、足を滑らせて落ちてしまった。アイタタタ・・・。そのとき、目の前でタイヤのブランコがわたしの顔面に迫ってきた。
あの時、はじめて目の前の景色がスローモーションになるのを経験した。タイヤが迫ってくるあの光景がスローになって全部見えた。4歳か5歳のときだ。わたしはドラマ「ナースのお仕事」にドハマりしていたので、目をつむると、目が覚めたときには病院のベッドにワープできると思い込んでいた。我ながらメルヘンなおバカさんだった。それでわたしは思いっきり目を閉じた。次のシーンはベッドの上だ・・・!
「うわあああああああああああんんんん!!!」
目を開いた時には痛すぎて泣いていた。遠心力で勢いをもったタイヤはわたしの左頬を直撃していた。病院にはワープできなかった。ドラマと現実の違いをあの時理解した。
迎えに来た親と病院にいくと、先生は血の塊になるので青くひどく腫れます、と言っていた。腫れが引いたら治るのでと言われたが、要約すると、しばらくは「こぶとりじいさん」になりますが心配なさらず、とのことだった。
わたしの頬はみるみる腫れていった。本当に頬が落ちるのではないかと思った。しかし男勝りだったわたしは、自分の顔が腫れても全く恥ずかしいと思わず、昨日と同じように走り回っていた。
気にせず遊んでいるうちに、いつの間にかその腫れは本当にひいていった。あっけなく。
そしてそのケガがこのえくぼになったのだ。
女の子の顔のケガは、親にとってとても心配だっただろう。
しかしこれが今はえくぼと認識され、わたしのチャームポイントとなった。
なにがどうなるかなんて本当にわからないものだな、思う。