フシギ話 言葉には物理的にも力があるらしい
建築を求めてストイックな一人旅も好きだけど、みんなでわいわい温泉旅行に行くのもかなり好き。そんな、みんなで出かけた旅行先で起きた、不思議な話。
15年前くらい前になる、大学の友人4人で長野県のとある温泉に行った時のこと。
温泉を満喫し、夕食が終わると、誰かが言い出した。
「夜の湖に行ってみないか、近いらしいよ」
「へえ、夜の水辺っておもしろそうだなー」と何の気なしに「いいよ」と返事をして、一行は夜の湖に行くことになった。その湖は、昼間はこの温泉街の観光スポットとして、旅館のパンフレットに紹介されていた。
私の運転で夜の山道を登ることになった。車1台分の幅しかない山道を40分のぼりくねって湖に到達した。
カーナビを見ると、どうやら楕円形の周りに周遊できる道があり、湖沿いに駐車場があったので、ほとりに車を止めて湖を眺めた。
「何にも見えないね」
今は夜で、山の頂上なので街灯もない。ただの真っ暗闇。
その時、僕は、湖の真ん中で動くものを見た。
踊り狂ったように動く影ー湖の黒よりも濃い黒だったので、影だと思った。踊り狂いながら徐々に近づいてくる。
これはやばいんじゃないか、と思って、影は僕たちを拒絶するような嫌な感じがしたので、咄嗟に(なぜか)一礼をし、すぐ「戻ろう」とみんなに言った。
怪訝な顔をされたけど、運転席に乗り、駐車場を飛び出して、元来た山道を探した。
が、焦っているせいか山道が見つからない。湖の周りをぐるぐる回ることになる。2周したところで落ち着きを取り戻して、車を一旦止めて山道を探そうとカーナビを見た。
すると、カーナビの現在地表示の三角マークが勝手に回転をしていた。車を止めているにもかかわらず!
道がないところを指し示すことはよくあるが、回転するのは初めてだった。
「え、なにこれ」
後ろの2人が騒いでいる。助手席の友人を見ると、目をつぶって手を祈るように合わせている。
しばらくこの状況に固まっていると、ふいに三角マークが止まり、正しい進行方向を指し示した。
これはラッキー、と思い、マップの端に山道が見えたので、そこを目指して車を出す。すると、また三角マークがぐるぐる回る。
けれども、カーナビに頼らなくとも目視で山道が確認できたので、気づいたら一目散に山道を降りていた。降りる間は、三角マークがぐるぐる回ったり、止まったりを繰り返していた。
旅館に戻ると、無事帰れた安堵もそこそこに、あれはなんだったのかという話になった。
すると、助手席に乗った友人がこう言った。
「心の中で般若心経を唱えている間は、(三角マークが)止まってたんだ」
...あれは何だったのか、今でもわからないけど、お経とか、昔の偉い人が描いた言葉には、本当に(物理的な)力があると思っている。
という話でした。
ぱなおとぱなこ