Eden of Den-en
前回、田奈の美しい田園風景を残したい。。その動機で個人的な企画を立案した僕ですが、その後もっと規模を大きくしたプロジェクトを考えました。
農業地から、住宅地にかわりゆくこのまちで、お互いのよいところを生み出すかたちで、豊かな田園風景を保ちつつ、持続可能な農業都市=農業楽園都市にできないか、そんなプロジェクトです。
これは実現性を秘めていますが、あくまで僕の個人的に考えたプロジェクトです。
前回の田奈プロジェクトの記事はこちら↓
01.失われゆく田園風景
横浜市青葉区田奈。その農業風景は、横浜市の近郊農業地域としてのバックアップがありながら、徐々に失われつつあります。
それは、農地の後継者不足と、新興住宅地の台頭による開発による問題から。現在は、荒れ地となったり、打ち捨てられた農地は資材保管場所が、散見されます。
田園都市線の沿線、青葉台・長津田という住宅群からなる都市の間にぽっかりと空いた田園風景。それが田奈です。
前回の記事で触れましたが、数年間住んでいた僕は、20年後の未来には、この美しい風景はなくなるだろうと、毎日歩きながら考えていました。
しかし、田奈の田奈たる場所性といいますか、所以は、この田園風景にある、と。
ここに、もし農業と居住がお互いに手を取り踊る風景を見いだせたらなと。
そんな思いから、このプロジェクトは始動しました。
計画地は、田園都市線田奈駅からほど近い、120m四方のあぜ道をふくんだ約15,000㎡の田んぼです。
ここに、新たな農地と、集合住宅をつくります。
仮想オーナーは、田んぼの持ち主と、その周辺の田んぼの持ち主を想定しました。居住者は、この周辺で近年増えつつある、20代から30代の子育て世代です。
ここに、農業の楽園をつくりたいと思いました。
全体の俯瞰図です。
農地の周囲にぐるりと囲うように住宅はあります。
農地と住宅地がお互いに分断して、それらが生き残るためにその土地をせめぎあう社会。ではなくて、、
農業と住宅が近接して、どちらも共存し、持続可能な社会。
そんなポテンシャルが、田奈の地にはあると思っています。
02.農住の持続可能な社会のアウトライン
僕が考えた、田奈――農業都市の持続可能社会のアウトラインはこうです。
オーナーは、田んぼを農地転用(法的に手続きが複雑ではありますが、不可能ではありません)して宅地に変え、敷地内に新しく農地を開墾し、集合住宅をつくります。
住人には、半分独立した住戸と、それぞれ50坪の小規模な農地が割り当てられます。住人は、その農作物をオーナーに売ることが可能です。
一方、オーナーは、地域の住民に、住人から買い取った農作物を販売します。また、特殊な技能を持った方々も住民として集めます。木工職人や、アート作家、絵本作家など。それらスペシャリストも、地域の住民に作品を売ることができます。
共同住宅内に、農作物のレストランや総菜屋、クリニック、農業NPO、教育NPOなどのテナントを入居させ、住民に福祉・医療・農業技術の伝達を促します。
住民同士は、みんなで農業をすることを介して、子育ての悩みや知識、お互いの農業の知識のコミュニケーションを触発します。
そうすることで、オーナーは住宅と農地の賃料を取れますし、住民は農作物を売ることで、生活の糧とできます。さらに住民は、共同住宅に住みながら医療・福祉・教育・農業技術の知識を享受することができます。
その建築費と収支計算ですが、もともと田んぼであり、大した土地価格ではありません。安価に建築費でつくれば、手ごろな価格で、子育てで家計が苦しい住民にも提供することもできるな、と。
またオーナーも長期的に見れば、田んぼよりも住宅+畑にしたほうが収益が得られるだろう、そんなオーナーと居住者がWIN-WINなかたちの絵を書きました。
03.提案/農住近接した、住民たちの楽園をつくる
120m四方の、約15,000㎡の正方形の土地を囲うようにして、ロの字型に集合住宅(2階建て)をつくり、その内側は、農地とします。住宅と農地の間には回遊できる道路をつくります。
農地には、あずまや(休憩所)、あぜ道の上の庇、ビニルハウス、用水路、防風林、ベンチ、桜の木、焚き火の煙除けの煙突をつくります。
住戸と住戸の間には、シェア土間があり、ここで農作物の保管を行います。農作業自体、複数の住民同士で行ってもよいのかもしれません。
正方形の四隅には、マーケットがあり、農作物や様々な職種の職人たちがつくった作品を販売できます。
農地外周の道と、用水路の風景です。
子供たちが用水路でザリガニやエビ、カニ、小魚を捕まえられます。
桜をいたるところに植えて、集合住宅のプライバシー確保しながら、風景を豊かにします。
自動車は、農地の外周を走ることができますが、速度規制の植樹帯をつくって、意図的に減速させ、歩行者主体の道とします。
農地のあずまやの様子です。住民たちはここで農業技術の交換会や、井戸端会議、子育てのことを先輩の住民から教わります。
あぜ道には、日よけの屋根があり、夏場の強い日ざしを防ぐとともに、ドライフラワーやドライフルーツを干しておける施設にもなります。
なお、住民には1人ひとり、デザインされた農作持を運ぶワゴンを供給されます。
正方形の建築の角の場所、マーケットの様子です。
農地の近くで、農家個人が野菜を売っているのを見かけたことはありませんか? お金を置いて、野菜を持っていくスタイルの路上販売。
その拡張バージョンです。
住民が育てた、野菜、果物、花卉、職人たちの作品が並びます。地域住民と居住者のの憩いの場所になります。
04.楽園の住居
集合住宅の拡大図です。下の図が1階、上が2階です。
基本は、個人住宅のように独立した建築とします。それらを、農作物や作業道具を置けるシェア土間や、隣人同士でランチができるシェアデッキ、シェア駐車場で緩やかに接続して、ひとつなぎの建築としています。
住戸一戸がプライバシーを確保しつつ、共有空間をもつ、マンションのよさと個人住宅の良さをあわせもつ建築形式としました。
1階サンルームの様子です。
ここでは、光を取り入れる空間となるとともに、応接間や、書斎、ハーブを育てるといった、半農半住空間としました。
リビングは2階とし、全開放できるサッシが広大な農地側に設置されています。
農地側に張り出したデッキはアウトサイドリビングとなり、風を感じながら、ソファを置いて、農地や広い空を望むことができます。
木造の梁や柱では、ドライフラワーを吊り下げることができます。
2階のシェアデッキは、隣接する住戸同士の共有空間です。
ここで、お互いの住人同士がランチをしたり、子供が遊んだり、時には農業の真剣な話を交わす、そんなコミュニケーションを触発する空間になるでしょう。
05.ゆるくつながる建築の可能性
上の5枚の絵は、ロの字型の建築を、ロの字に縦に切ってつなげた長ーい断面図です。
住戸同士が、ゆるくつながり、デッキや土間や駐車場をシェアすることを利用して2戸で2世帯住宅として、あるいは保育所としたり、またあるときは3戸使ってシェアオフィスにしたり、あるいは職人の工房と住宅にしたり、シェアデッキにリンゴの木を植えて農地化したり。
様々な可能性のある建築となっています。
そんな、様々な機能に対する受け入れの広さと、拡張性を持った建築としています。
06.パッシブエネルギーを用いた農業楽園
パッシブエネルギー(自然環境を機械によらない利用方法)を積極的に取り入れます。
住宅は太陽光パネルで電力を発電し、住戸の電気代を軽減します。住居のピット部(地中部)で雨水を貯める貯留槽を設け、トイレ洗浄などの雑排水に利用します。
農地との間には防風林(常緑樹や、桜などの修景樹)を設置し、広大な農地から吹く風を軽減し、住戸内にゆるやかな風を引き込みます。
あぜ道の庇の上にも太陽光パネルを設置し、街灯の電力としています。
また、水路は子供の遊び場として広めにとり、その豊富な水量を活かして畑に散水する役目も果たします。
そんな、土・光・水の自然のエネルギーを恵みを存分に活かした、農業楽園都市を目指しています。
07.田園都市の未来
このプロジェクトは、1つの土地だけでは終わりません。
この理念に賛同してくれた、周囲農地の土地主がパートナーとなり、どんどん建築と、その内包した畑が数珠つなぎ的に規模を大きくして発展していきます。
大きくなるごとに、拡張できる建築形式を利用して、より大きなショッピングセンターやデイケアセンターができたり、役所出張所ができたり、そんな拡張性と発展性をこの建築は秘めています。
収穫祭の風景です。
畑は農作物が豊かに実り、あぜ道にはマーケットが出て、子供たちが遊び、笑い、テラスではそんな収穫を祝う風景を望むことができます。遠くの煙突からは、焚火の煙が立ち上っています。
田奈がもつ田園の美しい風景と、人のにぎわった風景が、うまく共存できる風景を創出する、それが持続可能となって発展していく、そんな建築を展望しています。
20年後の風景は、どうなっているのか、楽しみです。
ぱなおとぱなこ