55 旅の夜には本を読む(後編) ネパール、インド
というわけで、旅先で思いがけなく出会って心に残る本がある。安宿のロビーや、旅行者向け古本屋に、ひっそりと。旅人から旅人へ渡ってゆく本。
【ネパール】
カトマンドゥのツーリストエリア、タメル地区の雑居ビルに入っていたブックショップには比較的興味深い本が置かれてあって、湯川秀樹のエッセイなんかを買ったのだけど、ある日、見つけて思わず「うわ」と声が出てしまったのが、
下村湖人「次郎物語」。
遡ることおよそ20年、小学校を卒業するときに担任のH先生に勧められた『次郎物語』ではないか。
そう、大好きなH先生に勧められたにも関わらず、ティーネイジャーは、もっさりしたタイトルの書物を手に取ることはなかった。そうして大人になり、なおかつ放浪者になってしまったが、H先生、遅ればせながら今読みます。
全巻買って、夜ごとしみじみ味わった。
ジョッチェン地区の宿 HIMARAYA GUEST HOUSE で仲良くなったHRちゃんとは映画の趣味が似ていて話が尽きなかった。本ではないのだけど勧められたのが、
「ルル・オン・ザ・ブリッジ」。
了解、帰国したらレンタル探して見るよ。
【インド】
カトマンドゥからHRちゃんはインドのバラナシへ、わたしはダージリンを目指してネパールを出た。
9月末のダージリンは毎日小雨か濃霧で、肌寒くて、薄暗かった。滅入る。シッキム地方へ北上する予定だったが、何もする気になれず安宿 BUDDHIST LODGE でぐずぐずしていた。そこへ日本人青年TRくんがチェックインしてきて、一緒に食事に出たりチャイを飲みに行ったりするうちに、
「これ、面白いですよ」
と、文庫本を貸してくれた。
ポール・オースター「ムーン・パレス」。
翻訳ものは殆ど読まないのだけど、これには最初から惹き込まれた。この小説家、何者?
プロフィールを読むと、なんと映画「ルル・オン・ザ・ブリッジ」の原作者だった。
運命がぐるぐる捩れて繋がってゆく物語「ムーン・パレス」のように、HRちゃんとTRくんとポール・オースターとわたしが繋がってゆく。
さて。
コルカタのサダルストリートの端(博物館じゃないほう)に、古本露店があった。ほかの国と同様、旅人が売っていった本がぐちゃぐちゃ並んである。ろくなものはないだろうと冷やかしのつもりで眺めていたのだけど、おおっ、気になる2冊を見つけて購入。
尾崎紅葉「多情多恨」
中沢新一「虹の階梯」
いやあ『多情多恨』、すごい、いい。沁みる。やっぱり尾崎紅葉いいよなあ〜。
『虹の階梯』これまで読んだ中沢新一でナンバルワンかも〜。
などなどと、HOTEL MARIA、ドミトリーのベッドで悶絶したのだった。
ただ、同室で知り合ったTちゃんに『虹の階梯』を譲ったことをちょっと悔いている。手元に置いておきたかった・・・。
(番外編)とくべつな1冊 へつづく